恋はレモンのように

恋はレモンのように……

 日曜日……
 空港に矢上と葉山、そして夏と、恭介、
ひとみと川内の姿があった。

 「みんなごめんね~。わざわざ見送りに
来てくれて……」
 矢上がみんなの顔を見渡し笑顔で言った。

 
 「先生、元気で……」
 「先生、手紙書きますね」
 「僕も美大受験頑張ります」
 恭介とひとみと川内が矢上にお別れの
言葉を口にする……。

 「ありがとう。みんなも元気でな……」
 矢上がそう呟くと、夏の腕を掴み、
 「ちょっと来い……」
 と言って夏を柱の陰に連れ出した。

  
 二人の姿を見つめながら、ひとみが呟く……
 「まさか……夏の初恋が矢上ッちになるとはね」
 「正直、俺も驚いた。でも、ヤツは海外に行く!
この俺にもまだ十分にチャンスはある」
 恭介が呟くと、すかさず川内が、
 「僕も、彼女のことを思い続けると決めたんだ」
 と言うと……
 「え? 先輩なんで? もうすぐ卒業するのに」
 ひとみが尋ねた。
 「ふふふ、僕は来年からも美術部OBとして
覗きにくるから……しばらくは彼女を近くで
見守ることができるよ」
 
 「なんだそれは……先輩はもう卒業するんだから
来るなよ……」
 「なんだと? 梶本君はモテるから他でも
いいじゃないか……」
 恭介と川内が揉めだし慌てて
間に入るひとみ……。


 そんな三人を少し離れたところで見ていた
葉山がクスッと笑うと、
 「俺も……彼女が卒業したら本格参戦
しようと思うんだけどな……」
 と呟いた。


 柱の陰に連れ出された夏に矢上が
手を差し出すと……
 「ん、色紙ちょうだい……」
 と呟いた。
 夏が、色紙が入った袋を矢上に渡すと、
 「今は、読まないで……あとで読んで」
と言って下を向いた。

 「夏、ありがとう。俺からも……」
 そう言うと矢上は手に持っていた
手提げ袋を渡した。

 「なにこれ?」
 「俺の気持ちかな……色んな意味での
家に戻ってから開けて……」
 「ありがとう……矢上ッち元気でね」
 「ああ、夏も……」

 「じゃあ、みんなの所に戻ろか……」
 振り向いた夏の腕をグッと掴んだ矢上が
夏の額にそっと唇を置いた……。
 「え……?」
 驚いた夏に、矢上が……

 「夏、いつかまた……
大人になった夏に会えたらいいな……」
 と優しく微笑むと矢上は、みんながいる場所に
一人戻って行った。

 葉山の前に立ち止まった矢上に……
 「見てましたよ。いけませんね~、
先生が生徒にあんなこと」
 葉山が呟いた。
 「俺、もう先生じゃね~し」
 「そうだった……じゃあ、今のは
見なかったことにするよ」
 葉山が微笑んだ。

 「今度、日本に戻って来た時には、
夏も大人になってるんだろうな」
 矢上が呟いた。

 「そうだな……きっと……
いい女になってるんじゃないか。
 慎也、俺もおまえに負けないよ」

 「望むところだよ……」

 二人は互いを見て微笑んだ。


 そして……
矢上を乗せた飛行機は、離陸すると
大空へ飛び立った……。


 夏と葉山、恭介とひとみ、そして川内は、
飛行機が見えなくなるまで、その影を見続けた。
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