ワンコ系ビジュ強め騎士はスパダリ魔法士の先輩に夢中


学園の昼休み、可愛らしい1年の女学生数人が窓からちらちらと外の様子を伺っている。

「もうすぐ出てくるはずよ!いつもここの渡り廊下を使っているもの。」
「しっ!いらっしゃったわ!」
「きゃ~白薔薇王子!素敵だわ!今日も無表情…」


はあ…と女子生徒たちは色めきだった吐息を漏らす。
その視線の先には、上衣が白、脚衣が黒のぴったりとした騎士服に身を包んだ、まるでおとぎ話の王子様のような女性が颯爽と闊歩していた。

女性にしては背が高く、鍛えているのか引き締まっているものの、線の細い体は儚く、どこか優美だった。


それもそのはずで、彼女は本来生粋の貴族のご令嬢なのである。

アイリス・ウィリアムズ―――
彼女は伯爵家の第一子として生まれた。
父親も祖父も曾祖父も皆騎士の出で、祖父と父に至っては王国の騎士団長を2代連続で歴任し、ウィリアムズ伯爵家は武家の名門として名を轟かせた。

王国随一の魔法治癒師として高名だった母より譲り受けた魔力は膨大で、アイリスは魔法士になるべく幼い頃から鍛え上げられた。

3歳、他の子が絵本を読んでいるとき、アイリスは魔法の入門書だった。
6歳、他の令嬢がかくれんぼをしているとき、アイリスは森に置き去りにされ己の力で帰還を強いられた。
15歳、ダンスパーティーが開かれているとき、アイリスは壮年の男たちに混ざって野営をしていた。

母は12年前に他界し、父はほとんど遠征で家を留守にしていた中育った。
厳しい父と、父からの指示を忠実に守る乳母、家庭教師、使用人たち…

騎士たる者、乱れを整え、無駄を削ぎ、常に冷静でいること。
徹底された高潔さは、17を迎えたアイリスに”中性的な美しさ”を与えた。

白薔薇王子―――アイリスの気品はそういったところから漂うのだろう。

その上品さも、女子生徒から人気を集めた。


「ああ、ミルクティーのような綺麗な御髪(おぐし)…あんな短髪、似合うのはアイリス様くらいですわ…」
「王子様みたい…この前も女子生徒を助けているのを見ましたわ。」
「こんなにカッコイイ先輩を拝めるなんて…この学園に入学して良かった…」


人気というよりも、もはや崇拝である。

しかしその熱はアイリス本人には届かない。
彼女が求めるのは武家の出自に恥じない力、ただ一つのみ。
学園生活は己の力を高めることだけに集中して1年間を過ごし、2年になると監督生という特別な称号を与えられた。
最初アイリスは断ろうとしたが、学生時代に監督生を務めると卒業後も出世の際に役立つと聞き、渋々引き受けた。
父も曾祖父も経験したという使用人からの情報も、アイリスを後押しした。


この、監督生という役職が、白薔薇王子の淡々とした学園生活の足枷となるのであるが。




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