ワンコ系ビジュ強め騎士はスパダリ魔法士の先輩に夢中
「アイリスったら朝も昼も夜もいないんだもの。お茶しようにもお菓子に誘おうにも、会えないんじゃ叶わないわ!」
「鍛錬していた。」
「もーっ相変わらずね!小さい時から鍛錬鍛錬で、そのうち脳みそまで魔法付漬けになっちゃうわよ。」
「そうなれたら光栄だね。」
「またそうやって魔法馬鹿なんだからーっ!」

左腕に小さな手を絡めたまま、アイリスと一緒に歩く少女。
背の低い彼女に合わせ、アイリスも歩幅を縮める。
そのアイリスの配慮にクレアも気が付き、うっとりとする。


「昼休みまだあるんだから一緒にお茶しよ?最近黒騎士くんと仲いいんでしょ?話聞かせて!」
「すまない、これから厩舎に行くんだ。それとあの1年と仲良くなった覚えはない。話すこともない。」
「え~普通科の女の子たちは王子と騎士の恋!とか盛り上がってたよ~?」
「…やめてくれ…」


かなりの不快を露わにした表情で斜め下の小動物を見やる。
赤茶色の長い髪。頭の上半分は編み込まれアイリスにはどうなっているのか全く分からない。
下ろされた下半分の長い髪は丁寧に巻かれ、華奢な背中を覆っていた。
普通科の彼女はスカートを履き、政治や外国語、経済について学んでいる。
男子は立派な貴族に、女子は将来の伴侶をサポートできる淑女になるべく設けられた科だった。

幼い頃から背が低く可愛らしい伯爵令嬢のクレアと、武家出身の長身のアイリスは、「まるでお伽噺の姫と王子のようだ」と言われ育ってきた。


「でも良かった~!あの黒いワンコ…おっと、公爵令息様にアイリスを取られちゃったら寂しいもの。」
「ありえないな。」


うふ、と素直に真正面から好意を示してくれる友人を、アイリスは眩しそうに眼を細めて眺める。


(あの善良で愛情深い両親に育てられたんだ。素直で可愛らしい淑女に育つのも頷ける。)


口下手なアイリスは心の中で、クレアを称賛した。
話しているうちに厩舎に到着し、クレアも一緒に誘おうかと思ったが、彼女が膝丈のスカートを履いていることに気が付いたアイリスは口をつぐみ、「じゃあ、また。」と切り出した。
「またっていつよ!あなた寮でも全然会えないんだもの!」と頬を膨らましたクレアに「ごめんごめん。」と、その華奢な肩を撫でる。
クレアはまるで恋人を相手にしているかのように顔を赤らめ微笑んだ。


「また、あの公爵令息様と面白いことがあったら話聞かせてね!」


と両手をぶんぶん振って校舎に戻っていく彼女を見送りながら、それはない、と静かに呟きながら小さく手を上げる。

賑やかなクレアが去り、再び静寂に包まれる。
遠くから聞こえる学生たちの声と馬たちの息遣いに包まれ、少し落ち着く。


”最近黒騎士くんと仲いいんでしょ”クレアに言われたことを、馬の鼻を撫でながら反芻していた。

(あれと仲良くなるなんて、ありえない。)

馬の手綱を引きながら、アイリスはセドリックが入学してきた当初のことを思い出していた。

< 5 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop