ワンコ系ビジュ強め騎士はスパダリ魔法士の先輩に夢中


9月。

入学式が終わって、3年の魔法科と騎士科の監督生である男子生徒たちと一緒に片付けをしていたところだった。
力仕事はいつもなら身体強化魔法をかけてなんなくこなすが、学園内で魔法の使用は禁止されている。
仕方なく生身で重い荷物を運んでいた時、他の監督生が「これも頼む」とアイリスの持っていた箱の上に更に荷物を載せてきたのだ。

「あっ…!」と体制を崩し、倒れる、と反射で目を瞑った瞬間、背中を支えられた。

振り向くと、癖のある黒髪と、月のような明るい金の瞳が目に映った。

(…公爵家の…)


真新しい黒い騎士服を纏った長身の新入生。
黒髪金眼はコーンウェルの象徴だ。

高貴な人物だと身構えようとしたのも束の間、黒髪の男がつぶやいた言葉がアイリスの胸を貫いた。

「ほっそ…。」

静かに、独り言のように呟かれた言葉だったが、アイリスは聞き逃さなかった。
アイリスが武家の出身として一番恥じていることを、この男は易々と口にした。

全身に火をつけられたかの如く血液がたぎり、頭に灼熱の火が昇っていく感覚だけがあった。

しかし相手は公爵家の令息である。
いくら学園内は出自に関わらず平等の精神だとしても、さすがに掴みかかることなどはできない。
必死に高ぶる熱を抑えようとしていると、黒髪の男は、あろうことかニッコリと笑いかけてきたのだ。


「先輩、大丈夫でしたか?」と。


その日からアイリスはこの男の笑顔を信じていない。
貼り付けたような完璧な笑顔も、容易い雰囲気も、高貴な身分でありながら剣を持つこと自体も、全てが虚像なのではないかと疑うべき相手となった。


―――はずなのに。
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