さようなら
「鎌倉へはどうして?」


「私の実家があるんですよ」


「そうでしたかぁ。


あの~、もしよければ、

『俺の蕎麦』っていう蕎麦屋に

行ってみてくださいな」


「息子さんの?」


「ええ。私は食べた事は

ないんですけどね…」


「そうですか…」




運転手さんは息子さんの事が

とても心配なんだろうな。


親ってみんなこうなんだろうな…






私は高校を卒業し、東京にある

ファッションデザインの

専門学校へ入学をした。


特にファッションデザイナーに

なりたかった分けでもない。


ただ、「東京で生活してるんだ」

って、誰かに自慢したかった

だけなんだ。




「あら… あそこのデパート

なくなったのね…


昔みんなで良く買い物に

来ていたわね…」


母が窓の外を見て言った。


「本当だ…

あのデパート…」


私も窓の外を眺めた。




タクシーは私が生活していた町を

あっという間に通り過ぎて行く。




あのデパートには私が中学生

くらいの時まで、良く家族で

買い物に行っていた。


あのデパートにはたくさんの

思い出がある…



一番の思い出は小学生の時に

クリスマスプレゼントを

買ってもらった事かな…


父と母は、「知り合いの子に

あげるプレゼント」って

言っていた。


私と姉はなんの疑いもなく、

父と母の買い物を待っていた。


そしてクリスマスイブの夜、

私と姉はサンタさんに

プレゼントを貰う為に

靴下を用意した。


私はサンタさんから何が貰えるか

楽しみで、なかなか

眠れなかった。



私は目が覚めた。


いつの間にか眠ってしまった

みたいだった。


父、母、姉の姿がなかった。


私は居間へ行ってみた。

そしたら姉が当時流行っていた

可愛い着せ替え人形を持って

楽しそうに笑っていた。

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