さようなら
「はい、到着しました~」


運転手さんが笑顔で言った。


母はゆっくりとタクシーを降りた。



「ありがとうございました~!


鎌倉、楽しんで来てください」


「ありがとうございます。


息子さんのお店、

行けたら行ってみます。


失礼ですが息子さんの

お名前は?」


母が聞いた。


「達也と申します」



運転手さんは頭を深く下げながら

息子さんの名前を言った。


運転手さんは私たちが

エレベーターに乗り、

扉が閉まるまで手を振ってくれた。




「面白い運転手さんだったわね」


母はそう言い、クスクスと笑った。



「あ、いけない…」


「お母さん、どうかした?」


「あの運転手さんの息子さんの店、

鎌倉の何処にあるか聞くのを

忘れちゃった」



私も笑ってしまった。


「もう!お母さんてば…


暗い顔して言うから、

何かと思っちゃった。


お店だから調べれば分かるわよ」


「それもそうね」



母と私はお互い顔を見て笑った。




新幹線が来た。


東京までは一時間ちょっとで

着いてしまう。



「お母さん、ここの席だよ。


お母さんは奥に座って」


新幹線が出発した。



「お母さん、少し寝てたら?


到着したら起こしてあげるから」


「そうね…」



母は目を閉じてた…




私は母越しに窓の外を眺めた。



私は高校を卒業し、東京に

行く時の事を思い出していた。





「紗英、そろそろ支度しなさい」


「もう出来てるから大丈夫」


「そう。あと20分くらいしたら

出るわよ」


「うん…」




私は家の中と外を隅々まで

見て回った。


幼稚園から住んでいた家…


少し切なくなった…


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