さようなら

ダイニングに戻り、

僕らは夕食を食べ始めた。


「敬太君、遠慮しないで

たくさん食べてね」


「あ、はい…」


夕食はハンバーグだった。


僕はハンバーグを一口食べた。


僕が想像していた味とは

少し違った。


これだけの家のハンバーグだから

かなり高級な味を想像していた。


しかし実際は素朴で

とても懐かしい味がする。


僕はきっと高級なハンバーグを

食べても、きっと味なんか

分からないだろう。


こういう家庭の味の方が

僕は心が安らぎ、

嬉しい気持ちになる。


「味はどうかしら？」


「とても美味しいです」

「良かった」


紗江のお母さんは

優しく笑った。


「敬太君、急に夕食に

誘ったりしてごめんね。

ずっと敬太君に会いたかったの」


「い、いえ…

夕食に誘って頂いて、

すごく嬉しいです…」


「私ね、ずっと去年の事を

謝りたくて…

ごめんね、敬太君…」


「いえ…」


僕はそれ以上何も言えなかった。



去年の秋…


「ごめん、紗江。

遅くなっちゃった」


「ううん、平気だよ」


「こんな格好で大丈夫かな？」


「うん、バッチリ！」


僕と紗江は

結婚しようと考えていた。


そして紗江の両親に

会う事になった。


僕らは紗江の家に着いた。


紗江が呼び鈴を鳴らそうとした。


「あ、ちょっと待って！」


「どうかした？」


「いや… 緊張しちゃって…」


僕は深く深呼吸をした。


「いいよ」


紗江が呼び鈴を鳴らし、

門が開いた。


付き合い始めてから、

何度か紗江を送りに

家の前までは来た事があったので

家の外見は見慣れていた。


始めて敷地に入った。


門から玄関までの距離には驚いた。