さようなら
お父様は少し間をおいてから

「そうですか」と答えた。


多分、いや、絶対に

大丈夫じゃないと知られて

しまった。



「それじゃあ、仕事行ってくる。


桜井さん、ゆっくりしてって

くださいね」


「はい…」


お父様は仕事に出掛けた。



「桜井さん、お母さん体調

良くないの?」


「ううん…」


「本当? この前お店に

来て貰った時、少し疲れたような

顔をしていたからさ。


僕も少し気にしていたんだけど」


「大丈夫よ…


それより、良かったわね。


お父様と仲直りできて」


私は何故かすごく

悲しくなってきた。


それを悟られない為に

私は強い口調で話した。




少し沈黙が流れた。


私は達也さんを見た。


達也さんの目は私の心の中を

全て見透かしているようだった。



「桜井さん、下の名前は?」


達也さんの言葉は、

とても優しかった。


私はそんな達也さんの言葉に

吸い込まれていった。


「紗英…です」


「紗英さんかぁ。


素敵な名前だね」


私は小さく首を振った。


「僕は素敵な名前だと思うよ」


達也さんは私を

じっとみつめていた。


「人間て、一人じゃ抱えきれない

物ってのがあるんだよ。


僕もそうだった…


だから、紗英さんの気持ちが

とても分かるんだ」


やっぱり…


全て私の気持ちを見透かしている。


「僕は器用じゃないから、

たいした言葉は掛けれないけど、

紗英さんの気持ちは全て

受け止められるよ」


達也さんの言葉を聞いた

その瞬間、私の目から涙が

溢れてきた。


私は達也さんの胸へ飛び込んだ。


達也さんは私を強く

抱きしめてくれた。



達也さんの胸の中は、

とても温かかった…


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