さようなら

紗江の家がごく一般的な

家庭でない事は、

なんとなく分かっていた。


その思いが少しずつ

膨らんでいった。


玄関の近くまで行くと

玄関のドアが開いた。


紗江のお母さんだ。


僕は緊張しながら

挨拶をした。


「は、初めまして…

永井敬太と申します…」

「初めまして。

紗江の母親です。

どうぞ上がってください」


紗江のお母さんは

笑顔で僕を迎えてくれた。


家の中に入り、

驚きは止まらなかった。

初めて目にするものばかりだ。


僕は目を真ん丸くしていた。


「敬太、こっちだよ」


「あ、うん…」


リビングに案内され、

高級そうなソファーに

腰を下ろした。


「紗江と敬太君は

ここに座っててね。

今、お父さんを呼んでくるわね」


僕の緊張はピークに達していた。


「敬太、大丈夫だよ。

お父さんも会いたいって

ずっと言ってたから」


「うん…」


暫くして、リビングの

ドアが開いた。


僕と紗江は立ち上がった。


「初めまして、私、

紗江さんとお付き合いを

させて頂いてます、

永井敬太と申します」


挨拶は良く出来た。


「どうも…」


お父さんは一言、そう言った。


「永井さん、座ってください」


お母さんが言った。


僕と紗江もソファーに腰を

下ろした。


お母さんが紅茶を

持ってきてくれた。


「どうぞ、遠慮しないで

くださいね」


「あ、はい…」


それぞれ、無言で紅茶を飲んだ。


暫くして、紗江が話し出した。


「ねぇ、お父さん…

私と敬江さんの結婚を

認めてもらいたいの…」

お父さんは一度下を向いた。


そして話し出した。


「永井君… だったかな…

仕事は洋服の

デザイナーみたいだね」


「あ、はい…

まだアシスタントですけれど…」


「そう…

生まれは長野だね」