さようなら
「葵、 お父さん、まだ来ない?」


「うん… ごめんね…」


「ううん、いいんだよ。


好きなだけ待ってていいんだから」


「ありがとう、智哉」


「オレ、二次会に先に行って、

上手く繋いでおくからさ。


ゆっくりで大丈夫だからね」


「本当にありがとう…」




智哉は優しく私の頬に

手を当てた。




式が終わって、2時間が経つ。


私はウェディングドレス姿で

父を待っていた。


最初は控室で待っていたけれど、

いてもたってもいられなくなり、

私は式場の外に出た。


辺りを見回すが、

父らしき人はいない。



外は太陽が沈みかけていた。


空の青と太陽の赤が混じり合い、

幻想的な雰囲気を漂わせていた。



「お父さん…」



私は小さく呟いた。


その時、夕陽の光が私に

飛び込んできた。


眩しくて思わず目を閉じた。



薄く目を開けてみた。


目の前に見えたのは

小さい時の私と父の姿だった。


私は父の膝の上に乗り、

二人でブランコに乗っていた。


二人は楽しそうに話しをしている。



「これは…」



その光景は私と父が最後に

会った日の光景だった…


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