ひとり焼肉が好きなひと。
ひとり焼肉 ざぶとん3枚目
ふかふかの白いベッドの上、買ったばかりのヒラヒラのレースの水色の下着を拾い上げ、お気に入りの白いおしゃれなワイシャツのボタンを上から順々にしめた。大きな枕に裸の体を半分乗せて、火をつけた紙たばこを1つ吸って、天を仰いだ。めがねをベッドの宮棚から取り出した。
「次はいつ会える?」
「来週も仕事ですから。普通に会いますよね」
「そうだけどさ。スマホに文字残すと見つかるから話しておかないと。仕事以外の話だし」
「あー、こういう状況のことですか」
瑞季は、ハンガーにかけて置いたスカートを履いた。
「冷たいなぁ」
「給料上げてくれるなら考えますよ?」
「うーん。それは、無理」
「んじゃ、仕事だけってことで」
「ねぇ、その交換条件厳しくない?」
いつからか、彼氏でもない、夫でもない。こんな関係性になったのは。沢村瑞季は、部長である上司の山下透と月に2回ほど、会っては世間一般的にはいけないことをしていた。妻という人がありながら、部下である瑞季と関係を持った。歓送迎会で飲みすぎたときからいつの間にか仕事以上の関係に。瑞季は彼氏とも思ってないし友達以上恋人未満の高校生のような関係でもない。性のストレス発散。上司のご機嫌伺いのような機嫌が良くなるならと相手をしている。
本当ならば、恋人を作り、いずれは結婚と考えたいところだが、固定される関係に抵抗を感じていた。今は、お互い都合の良い綺麗な部分しか見えない。それが楽だった。実の母親からは結婚の前に孫はまだかと言われるが、そんなつもりはとうに消えた。今は、子どもは望んでいない。瑞季は、ベッドの上に置いていたバズローブを引っ張って片付けようとした。
透が、瑞季の左腕をぐいっと引っ張る。
「もう1回」
「え……。無理」
「そんなこと言うなよ。帰ったってどうせ誰も相手してくれないんだからいいじゃん」
「また次回」
「アニメの次回予告じゃないんだからさ」
例えが新しいんだけど、年齢の割に合わない。
「いくら、何したって妊娠しないからって勝手すぎる。体力ないし、予定あるから。そろそろ、帰るわ」
ピルを飲んで毎月の時期を調整していた。生理不順に悩ませていた瑞紀にとってはいろんな意味で好都合だった。
ソファに置いていた革のショルダーバックを肩にかけた。ハイヒールを履く。
「それじゃ、お疲れ様でした。失礼します」
瑞季は、仕事終わりの部下に戻り、一礼をして、ホテルを後にした。ヒールの音がコンクリートをカツカツと打ち鳴らす。透は上半身裸のまま、タバコをもう1本吸った。
「ちぇ……。スッキリしない終わり方だ……」