「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています

0.消えた婚約者

「……なんだこれは」

 白い封筒の中に入っていた手紙を読んで、俺は呆然と立ちすくんだ。

 手紙には婚約者であるセラフィーナの字で別れの言葉が綴られている。


『エリオット殿下、皆さま、ご迷惑をおかけすることをお許しください。
これ以上誰の邪魔もしないように、セラフィーナは自らの手で命を終わらせようと思います。
今までありがとうございました。
エリオット様、アメリア様とどうかお幸せに』


 いつもセラがいたはずの別邸は、がらんとして誰もいない。

 呼吸が早くなっていく。

 一体これはどういうことだ。何の悪ふざけなんだ?

 セラが俺の前から消えるはずがない。

 セラの銀色の長い髪と、澄んだ瑠璃色の目が頭に浮かぶ。セラは俺が何を言おうと、どんな扱いをしようと、決して逆らおうとしなかった。

 それが今になって、こんな当てつけみたいな手紙を残して消えるなんて。


 確かに昨日は少々言い過ぎてしまったかもしれない。

 いくらアメリアを厚遇しようと文句のひとつも言わないセラの態度に苛立ち、心にもないことを言ってしまった。

 しかし、あんな一言で命まで絶つなんて誰が思うだろう。

 言い過ぎたと思ったから、こうしてわざわざ別邸に謝罪しに来てやったのに。


 頭はどんどん混乱で埋め尽くされていく。

 セラがいなくなることを想像したら血の気が引いた。

 セラが俺の前から消えるなんて絶対に許さない。


 俺は手紙をぐしゃりと握りしめると、宮殿まで駆けだした。
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