「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 私がいつも通り言いつけられた庭の掃除をしていると、花壇の向こうにキラキラ光る金色の髪が見えた。

 背丈からすると、私と同じ年くらいに見える。

 私がぼうっと眺めていると、金色の髪の少年は突然駆け出し始めた。

 一心不乱に走る少年が、どんどんこちらに近づいてくる。

 私はびっくりして道の真ん中に固まってしまう。私とかち合った少年は、目をまん丸に見開いた。


「なんだ、お前! 道をふさぐな! 俺はシャノン公爵家の人間どもから逃げなければならないんだ!」

 少年は目を吊り上げて怒っている。

 私は慌てて謝って道を開けた。

 私の肩ではシリウスが、『なにこいつ突然やって来て』と呆れ顔をしている。

 少年にはシリウスの声が聞こえていないらしく、全く反応しない。

 しかし、私の顔を見ると不機嫌そうにぷいっと顔を背けてしまった。


 せっかく道を開けたのに、なぜか動く気配がない。

 私は戸惑いながらも少年の顔を見て、この人は誰だろうと考えた。

 今日来る予定のお客様が、息子さんを連れていらしたのだろうか。

 それにしても、随分いい服を着ている。今日来たお客様と言うのは相当高い身分の方なのだろう。

 お父様が絶対に姿を見せるなと言い聞かせてくるはずだ。


「お前、使用人の子供か」

 そっぽを向いていた少年は、不機嫌そうな顔のままこちらを見ると尋ねてきた。

 私の肩で少年に向かって文句を言っていたシリウスが吹き出す。

 私も笑いそうになるのをどうにか堪えた。シリウスに初めて会ったときも同じことを言われたのを思い出したのだ。

 やはり私は誰が見ても使用人にしか見えないらしい。


「はい。このお屋敷で働くメイドの子供です」

 シリウスの時とは違い、私は嘘を吐くことにした。

 今日はお客様の前に顔を出すなと言われているから、本当のことを言うのはまずい。


「ふーん。仮にも公爵家の使用人のくせに、随分みすぼらしい身なりをしているな」

 少年は私の着ている服をじろじろ眺めながら言った。私はいたたまれなくなってスカートの汚れを隠すようにエプロンを引っ張る。

 私が今着ているのは、着古してくすんだ青いワンピースに、あちこち擦り切れた白いエプロン。

 本当の公爵家の使用人は、もっとちゃんとした制服を着ている。

 つまり、この屋敷での私の存在は、使用人以下だということだ。
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