「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
『何この失礼なガキ。セラ、追っ払っちゃおうよ』

「だめよ、シリウス。お客様なのよ」

 少年を睨みつけているシリウスを、慌てて窘める。

 シリウスの姿が見えない少年は、一人でしゃべり出した私を不審そうに眺めた。それから眉を顰めて口を開く。


「……怪しいな。お前、本当にシャノン公爵家の使用人か?」

「え」

 私はびっくりして固まった。

 さすがにこんなみすぼらしい姿の使用人がいるのはおかしいと思われたのだろうか。

 どうしよう、命令を破ってお客様の前に姿を現したと知れたら、どんな罰を受けるかわからない。

 不可抗力だったなんて言い訳通用しないはずだ。


「そ、そうですよ。どうして疑われるのですか?」

「いや、お前の髪がな……」

 少年はじっと私の髪を見つめる。

 髪も汚れていたのだろうかと思い、恥ずかしくなって俯いた。

 浴室を使うことは許されていないので、いつもどうにかこっそり桶に水を汲んでお風呂替わりにしたり、それが出来ないときは布で体を拭いたりして凌いでいる。けれど、それにも限界がある。

 きっと毎日たくさんの使用人に囲まれ、身支度を整えてもらっているであろうこの高位貴族らしい少年には、私がさぞ薄汚れて見えるだろう。


「それに目もだ。銀髪に瑠璃色の目なんてそうそう見かけないぞ。平民には見えない。いや、どこかいい家から来たメイドの子供なのか? それにしては身なりがみすぼらしいし……」

 少年は顎に手をあてて不思議そうにこちらを見ている。

 薄汚れていると思われていたわけではなかったようだけれど、メイドの子ではないとバレるのは余計にまずい。


「というかお前、シャノン公爵家の人間と似た色合いをしているな。シャノン家の人間は、ほとんどが銀髪に寒色系の目だ。もしかして、娘に何かあったときの影武者にするために連れてこられたのか?」

「あ、あの! 先ほど逃げているとおっしゃっていませんでしたか!? 追手が来てしまうのでは!?」

 話の方向がまずい方へ行き、私は慌てて彼の言葉を遮った。

 少年ははっとした顔で後ろを見たけれど、後ろから誰も来ていないのを見て安堵の顔になる。


「そうだ、逃げている最中だった。ちょうどいい。お前も一緒に来い」

「え?」

 少年は私の腕を掴むと、躊躇なく引っ張って行く。
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