「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
『セラ、本当に何なのこのガキ! 振り切って逃げちゃいなよ!』

「で、でもお客様の子だろうし……」

『この子を追って誰かが来たときにセラが一緒だったら余計にまずいでしょ! 早く逃げないと!』

 シリウスは慌てた声で言う。

 確かにその通りなのだけれど、強く手を掴まれているせいでなかなか振り切れない。

 というより、高位貴族のご子息であろう方の手を思いきり振りほどくのには抵抗があり、なかなか手に力が入らなかった。


 少年は庭をしばらく進んだ先の木の影に腰を下ろすと、私にも座るよう命令した。

 私は戸惑いながらも少年の隣に腰を下ろす。

 手を離してくれたのでもう逃げられるけれど、なぜだかそうする気がしなかった。

「お前、さっきからこそこそ誰と話してるんだ」

「えっ」

 不審そうに聞かれ、思わず目を泳がせてしまった。

 シリウスとは小声で話していたつもりだったけれど、気づかれていたらしい。

 言葉に詰まる私をじろじろ見ながら、少年は私の肩の当たりに目を留める。

 そこはシリウスがいる場所だった。


「……そこだけうっすら空気が歪んで見えるな」

「そ、そんなことはございません! 気のせいです!」

「なぜ断言できるんだ。逆に怪しいな……」

 少年はシリウスのいる場所をじっと睨みつける。少年に見つめられたシリウスは、心底嫌そうな顔をしていた。

 私は尋問されている気分で時間が過ぎ去るのを待つ。


「……お前、まさかシャノン家の三人目の令嬢か?」

「!!」

 突然そう問われて、全身の血の気が引いた。

 誤魔化せばよかったのに、動揺して少年の顔を凝視してしまったものだから、彼はそれが正解だと察してしまったようだった。


「はは、やっぱりそうか! シャノン家の三女は病弱で屋敷から出られないということになっているが、本当は精霊の見えない出来損ないを閉じ込めているだけなのだと裏では噂になっているんだ。まさか本当だったとは」

「あ、あの、どうか、今日私に会ったことは秘密にしてください……。お客様の前には姿を現すなと言いつけられているんです」

「ふーん。やはりシャノン公爵家の奴らはどうしようもない人間なのだな」

 少年はこちらをにやにや眺めながら言う。

 それからすっと立ち上がると、私に手を差し出した。


「やっぱり屋敷の中へ戻る。お前も一緒に来い」

「え、あの、私、勝手に本邸に入ってはいけないと命じられているので……」

「俺が一緒なら問題ない。行くぞ」

 少年は私の手を掴むと、有無を言わせず引っ張って行く。

 シリウスが慌てて引き離そうとしてくれたけれど、精霊は契約者以外の人間や物体に直接干渉できないので、シリウスの前足は空を舞うだけだった。
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