「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 少年はずんずん歩いて、お屋敷の門が近づいて来た。

 さすがにこれはまずい。お客様に会った上、禁じられている本邸に足を踏み入れたりなどしたら、どんな折檻を受けるかわからない。

「離してください! 私、本当にダメなんです!」

「大丈夫だって言ってるだろ。さっさとついて来い」

「ですから、本当に……!」

 振りほどこうと手を動かしたら、逆にぎゅっと掴まれてしまった。少年はこっちを真っ直ぐに見つめながら言う。


「何も心配しなくていい。俺がお前を助けてやる」

 少年はそう言って笑った。

 助けるなんてどうやって。私といくらも年の変わらなそうなこの男の子に、お父様たちをどうにか出来るとは思えない。

 なのに、不思議と彼の言葉は私の胸に深く響いた。

 私は無意識のうちにうなずいて、シリウスが止めるのも聞かないまま、本邸に足を踏み入れてしまった。


「シャノン公爵。婚約者を決めました。この子を俺の婚約者にしてください」

 本邸の応接室に入るなり、少年はそう宣言した。

 応接室にはお父様とお母様とお姉様たち、それにお客様らしき身なりのいい方達が揃っていた。

 びっくりして目をぱちくりしながら彼を見る。

 応接室にいた大人たちは私よりもさらに驚いているようで、皆呆けた顔で少年を見ていた。


「殿下! 勝手に出ていってしまったと思ったら、急に何をおっしゃるのです! 皆殿下を探して大騒ぎだったのですよ!」

 大人たちの中から、眼鏡をかけた青年が怖い顔で近づいてくる。

 「でんか」とはなんだろう、と私は首を傾げる。肩に載っていたシリウスが息を呑むのがわかった。


「皆で探しても俺のことを見つけられないのか。不甲斐ない奴らだ。別に構わないだろう。陛下に命じられた通りシャノン公爵家の娘の中から婚約者を選んでやったのだから」

「公爵家の娘って……、シャノン家のご令嬢はこちらにいらっしゃるではありませんか。そちらの娘さんは誰なんです?」

 眼鏡の男の人は私を見つめて眉を顰める。

 身なりのいいこの男性には、ボロを纏って髪もぼさぼさの私がさぞ不快に映るだろう。


「こいつもシャノン公爵家の娘らしい。陛下はシャノン家の娘という以外の条件を出さなかった。こいつでも構わないだろ?」

「殿下……」

 眼鏡の男の人は驚いた顔で私を見た。それから少年に顔を向け、困り切った顔をする。
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