「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「エリオット殿下。娘が大変失礼いたしました。セラフィーナが殿下に自分を婚約者にして欲しいとわがままを言ったのですね?」

 今まで唖然とした顔でこちらを見るばかりだったお父様が、ようやく口を開いた。

 少年は首を傾げるとこちらを見て、「お前セラフィーナと言うのか?」と尋ねてくる。私はおそるおそるうなずいた。

 少年は納得した顔をして、お父様に向き直る。


「いや。俺が自分で決めたのだ」

「それはそれは……。しかし、殿下。セラフィーナは精霊師として非常に未熟で、はっきりと精霊を見ることすらできないのです。その上、体が弱く普段は寝てばかりなので、次期王子妃になるのは難しいでしょう。姉二人のどちらかに考え直していただけませんか」

 お父様は私が今まで見たこともないような柔らかい笑みを浮かべ、お姉様たちを手で指し示している。

 二人のお姉様は、殿下と呼ばれる少年を身を乗り出すように見つめていた。少年はたちまち不快そうな顔になる。


「陛下からはシャノン家の娘なら誰を選んでもいいと聞いているぞ。俺の決定に口を出す気か?」

「いえ、滅相もございません。しかし、エリオット殿下の婚約者になるのでしたら、能力のある健康な娘の方をと……」

 詰め寄られてお父様は困った顔になる。

 周りの大人たちも一様に動揺と焦りの混ざった顔をしていて、室内は混沌していた。

 一方の私はまるで現実感が湧かず、この少年はエリオットと言うのかなんて、ぼんやりと考えた。


「とにかく俺がそう決めたのだ。レオン、契約書を持ってこい」

「しかし、殿下。シャノン公爵もああおっしゃっていますし、もう少し検討されてからの方がよろしいのでは……」

「お前まで俺に逆らうのか? 俺はセラフィーナでなければ婚約などしないぞ。今日だって陛下に無理やり送り出されただけで、本当はシャノン家との縁談など断るつもりだったのだ」

「殿下! 何をおっしゃるのです!」

 レオンと言うらしい眼鏡の男の人は、エリオット様の言葉に顔を青ざめさせている。

 レオンさんはどうにかエリオット様を説得しようとしていたが、彼は一向に首を縦に振らなかった。

 固い表情をしていたお父様が、渋々と言った様子で口を開く。


「……わかりました。セラフィーナを殿下の婚約者にいたしましょう」

「あなた! 何を言ってるの!?」

 引きつり笑顔でやり取りを眺めていたお母様が、耐えきれなくなったようにお父様に詰め寄る。

 お父様は苦々しい顔で言った。


「仕方ないだろう。ここであまり食い下がって、シャノン家との縁談自体がなくなっては困る」

「けれど、セラフィーナを王子殿下の婚約者になんて……」

「セラフィーナでも王家との繋がりが出来るだけましだ」

 お父様とお母様は小声でそんなことを話し合っている。

 大人の事情がろくにわからない私でも、そういうことをお客様の前で言うのはまずいのではないかと思ったけれど、二人ともよほど動揺しているらしく考えられないみたいだ。

 それより、気になるのは……。
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