「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 しばらく沈黙が続いた後、お父様は何とも苦々しい顔で「どうぞセラフィーナを連れて行ってください」と答えた。

 エリオット様はその答えを聞くと、私の顔を見て、まるでいたずらが成功したみたいに楽しそうに笑った。

 その顔を見た途端、私の心臓は急に早く鳴りだした。

 わけがわからず、私は慌てて心臓を手で押さえる。

「行こう。セラフィーナ」

 エリオット様はそう言って私の手を取った。触れた手がやけに熱い気がした。


***

 それから、私はろくに準備もしないままエリオット様の乗って来た馬車に乗せられた。

 馬車の中でエリオット様はずっと小言を言うレオンさんに文句を返していて、私はその様子を向かいの席からただ眺めていた。


『セラ、こいつ生意気でムカつくガキだと思っていたけれど、結構いい奴だったんだね』

 私の膝の上に乗っていたシリウスが、エリオット様をちらりと見ながら囁いてくる。

「本当ね。初めて会った私をシャノン家から救い出してくれるなんて……。なんて慈悲深い方なのかしら」

 今まで生きてきた中で、こんな親切を受けたのは初めてだ。

 この方はなんて素晴らしい方なのだろう。

 熱に浮かされたようにエリオット様を見つめる私を、シリウスはやれやれという顔で見ていた。


 王宮に着くと、エリオット様は私を別邸という場所に連れて行くと言った。

 ついて行くというレオンさんを振り切り、エリオット様は少々乱暴に私の手を引っ張って行く。

「お前は今日からそこに住むんだ」

 エリオット様はそう言いながら私を別邸まで案内してくれた。

 シリウスは私の肩に飛び乗ると、『王宮の別邸ならきっといい場所だね』と楽しげな声で耳打ちした。


 到着したのは、王宮の庭を進んだ先の、かなり奥まった場所にある宮殿だった。

 宮殿と言っていいのだろうか。

 造りは立派に見えるものの、あちこちが剥げかけて古びている。

 手入れする者がいないのか、あちこちに蔦が張っていた。

 王宮の別邸のイメージとは違ったけれど、シャノン家の物置部屋に比べると各段にいい場所だ。
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