「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
『ちょ、ちょっと、この王子様、セラをここに住ませる気……?』

 私が宮殿に見惚れていると、シリウスに前足で肩を叩かれた。

 エリオット様は私の顔を見ると、先ほどの無邪気な笑みとは違う、意地悪な顔で笑う。


「随分驚いた顔をしているな。豪華絢爛な城にでも住まわせてもらえると思ったか?」

「え?」

「さっきは助けてやると言ったがな、俺はお前のためにシャノン家からお前を連れ出したわけではないぞ。ただ、シャノン家も国王陛下も大嫌いだから、あいつらの思い通りにシャノン家の令嬢と婚約するのが嫌だっただけだ」

 エリオット様は愉快そうに笑いながら言う。

 私は彼の言っていることがよくわからず、首を傾げて聞いていた。


「名門シャノン家の出来損ないの三女。お前と婚約するのが一番陛下とシャノン公爵に対する嫌がらせになると思ったから婚約者にしたんだ。結果的にお前をあの家から助け出してやったんだから、せいぜい俺の役に立てよ」

 エリオット様はそう言って高笑いした。

 シリウスが私の肩でシャーシャー唸りだす。

 ようやく少しだけ事情が呑み込めた。

 エリオット様は親切で私を婚約者に選んでくれたわけではなく、国王様や私のお父様が嫌いだから、彼らに反抗するために私を選んだというわけらしい。

 どうして国王様やお父様が嫌いなのかはわからないけれど、これでみすぼらしい私を婚約者に選んだ理由はわかった。

 確かに私なら、ちゃんとした娘と婚約して欲しい両親たちへの嫌がらせに選ぶのに最適な相手だと思う。


「どうした? 不満でもあるのか? 俺はお前を救い出してやったんだぞ」

 エリオット様が腕組みしながら尋ねてくる。シリウスの唸り声が大きくなった。

「いいえ、不満などございません」

「そうか、立場をわきまえているようで何より……」

「私、エリオット様のお役に立てるよう頑張りますね!」

 感謝の気持ちを込めて答えたら、エリオット様は目を丸くしてこちらを見た。


「……ほかに言うことはないのか?」

「え? あ、私ったらお礼も言わず……。シャノン家から救い出してくださりありがとうございました」

 ちゃんとお礼を言っていなかったことを思い出し、急いで頭を下げる。

 すると、シリウスに肩をかぷりと噛まれた。


『セラ! こんな奴にお礼言うことないよ! とんでもないクソガキじゃないか!』

「でも、あの家から救い出してくれたのだし……」

『全部あいつ自身の利益のためだろ!? それを恩着せがましく言いやがって……!』

 にゃあにゃあ文句を言っているシリウスの言葉を聞いていると、ぽかんとこちらを見ていたエリオット様がようやく口を開いた。
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