「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「お前、それでいいのか? このくたびれた宮殿に住めと言っているのだぞ」

「くたびれた宮殿だなんて! 今まで物置部屋で生活していた私には、立派過ぎるくらいですわ」

「陛下とシャノン公爵に対する嫌がらせでお前を婚約者にしたことはいいのか?」

「はい。そのおかげでシャノンの屋敷から出れたのですもの。感謝してもしきれないくらいです」

 迷わずそう言い切ると、エリオット様は口を引き結んで難しい顔になってしまった。

 しばらく黙り込んでいたエリオット様は、複雑な表情でこちらを見ながら言う。


「……そうか。それならいい。助けてやった分、よく働けよ」

「はい、エリオット様!」

 私は感謝の気持ちを込めて返事をした。

 肩でシリウスがまだ文句を言っている。

 けれど私には、突然訪れた幸運が信じられないくらいだった。

 エリオット様のためなら、なんでもしたい。

 どうにかこの幸運に報いようと、私は固く決意した。


***

 そんな風に昔のことを思い出しながら、私は別邸までの道を歩いていた。

 本当に、エリオット様には感謝してもしきれない。

 彼がいなかったら、今も私はシャノン公爵家で出来損ないと蔑まれながら、物置に閉じ込められ、食事もろくにもらえず、お姉様たちや使用人たちからの嫌がらせに耐える生活をしていたはずだ。

 王宮でも出来損ないと蔑まれていることには変わりないけれど、私は別邸に住まわせてもらっているので、そこにいれば基本的に何の危害も加えられない。

 食事も出してもらえるし、着替えの衣装だって用意してもらえる。

 私にとってはあまりに恵まれ過ぎた暮らしだった。

 シリウスは『このスープほとんど水じゃん』とか、『何このドレス、どこの年代物?』なんて文句を言っているけれど、私にはそれくらいで十分だ。


「けれど、私はエリオット様に何の恩返しもできていないのよね……」

 悲しいのは、こんなに良くしてもらっているのに、何一つ彼に恩返しをできていないことだ。

 どうにかエリオット様の役に立ちたくて精霊を操れないながらも王宮の塔に行って精霊たちに力を送ったり、アメリア様の張る結界に力を込めて強化したりしてはいる。

 けれど、その程度で恩を返せているとは到底思えない。

 それどころか、私がいるせいでエリオット様とアメリア様の結婚を阻んでしまっている。

 先ほどのエリオット様の苛立たしげな顔を思い出すと、目に涙が滲んできた。


 どうしたら彼の役に立てるだろう。

 いや、役に立たなくても、せめて彼を邪魔しない存在になれたらいいのに……。


「……私が消えるとか?」

 ふと頭に光がさすように考えが浮かんだ。

 思わず声に出して呟いた私に、シリウスはぎょっとした目を向ける。
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