「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
『ちょっと、セラ! 早まらないでよ!? まさかあんな馬鹿王子たちのために身投げするとか言い出さないよね!?』

「身投げ……。いいわね。どうして気づかなかったのかしら。私が死ねばエリオット様と結婚しようがないわ。二人の邪魔をしなくて済むじゃない!」

 突如浮かんだ考えに、私はすっかり魅了されてしまった。

 なんでこんな簡単なことを今まで思いつかなかったのだろう。

 私がエリオット様のために出来ることがあったのだ。

 恍惚とする私を、シリウスは私の服の袖に噛みついて引っ張りながら、慌てた声で止める。

『セラ、一度冷静になって! セラがあんな奴らのために死ぬ必要ない!』

「大丈夫よ、シリウス。本当に死ぬつもりはないわ」

『え?』

 シリウスはぽかんとした顔で私を見た。


「私が死んだことにすればいいと思うの。遺書を書いて崖か何かに血の付いた服の切れ端を置いておけば、きっと死んだと思ってくれるわ! それで私はどこかへ逃げてしまえばいいのよ!」

『えー……。まぁ、死ぬ気がないのはよかったけどさ……。セラがそこまでする必要ある?』

 シリウスはげんなりした顔で言う。

「あるわ。私はエリオット様に少しでも恩返しをしなければならないの!」

『ふーん。今やってることで十分過ぎるくらいだと思うけど……』

 シリウスは勢い込んで言う私に、納得のいっていなそうな顔を向ける。

 しかし、何かに気づいたように耳をパタパタ動かすと、明るい声で言った。


『いや、やっぱりありかもしれない。どこか遠い場所に行くのもいいかもね』

「シリウス、賛成してくれるの!?」

『うん。よく考えたら、セラはずっとこんな場所に閉じ込められて搾取されているより、自由な場所へ行った方が良い気がしてきた』

「あら、私搾取なんてされてないわ。でも、そうね。エリオット様と離れるのはつらいけれど、自由になるのだと考えたら少し気が楽になるわ」

 出来ることなら、私がそばにいてエリオット様を幸せにしてあげたい。

 けれど、何の力も持たない私では無理だ。

 それはとても悲しいことだけれど、新たな人生を始めるのだと思えば少し元気が湧いてくる。


「早速準備しないと! シリウス、手伝ってくれる?」

『いいよ。協力してあげる』

 シリウスは尻尾をぱたぱた動かしながらそう言った。


 私は別邸に戻ると、早速死の偽装工作の準備を始めた。

 寂しさは消えなかったけれど、エリオット様の幸せと新たな生活を思うと、今まで感じたことのない晴れやかな気持ちが胸に広がった。
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