「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 アメリアの力を知った国民たちは、彼女を聖女と呼び始めた。

 アメリアの人気が高まると同時に、ろくに力を使えないセラフィーナよりも、アメリアの方が次期王妃にふさわしいのではないかという声が上がり始めた。

 くだらない声など無視していたが、ある時俺のいないところで、前々からセラに対して当たりのきつかった臣下の一人がセラとアメリアに精霊術に関する勝負をするよう持ち掛けた。

 結果は当然、セラの惨敗。

 そのことをきっかけに、余計に国民の支持がアメリアに傾くようになった。


 その頃には、アメリアは精霊師用の寮ではなく本宮殿で暮らすようになっていた。

 国民に愛されている聖女をぞんざいに扱うことは出来ず、俺はアメリアに頼まれるまま、王宮を案内したり、彼女の精霊師としての仕事に付き添ったりしていた。

 セラはそんな俺たちに対して、何も言わなかった。

 宮殿や庭ですれ違うことがあっても、ただ俺とアメリアに向かって微笑むだけ。

 わきまえていて正しい態度のはずだ。俺がずっとセラに求めてきた態度。

 なのに、セラにそんな反応をされるとなぜだか苛立ちが募った。

 シャノン公爵家の娘など、ただ逆らわずにそこにいればいいと思っていたはずなのに。


 もともと陛下やシャノン公爵への嫌がらせで決めた婚約者で、最初から全く仲がよかったわけではないが、アメリアが来てからは余計にセラとの距離が遠のいた気がする。

 日に日に増していくセラへのわけがわからない感情を、自分でも持て余していた。


 しかし、だからといって昨日の俺の態度はやはりよくなかったように思う。

 アメリアを王妃にするかもしれないと言ってもろくに感情を動かされた様子のないセラに無性に腹が立ち、ついお前さえいなければなんて心にもないことを言ってしまった。

 そう言ったときの、セラの悲しげな顔が目に浮かぶ。

 気が進まないけれど、訂正してやった方がいいかもしれない。セラがまだ悲しんでいるようだったら、仕方ないが謝罪してやろう。

 俺は覚悟を決めて、セラの住む別邸まで足を向けた。


***

「どういうことだ……?」

 別邸につくと、そこはがらんとして人の気配がなかった。

 元々使用人もいない寂れた場所ではあるが、セラはいつもここで俺にはよく見えない猫型の精霊と暮らしているはずだった。

 しかし、今は何の気配もしない。

 部屋を一つ一つ回っていくが、どの部屋にもセラはいなかった。

 宮殿を歩き回るうちに、嫌な予感が胸を占めていく。


 一通り宮殿を回った後、セラが寝室として使っている部屋に行くと、先ほど来たときは気づかなかった白い封筒が机の上に置いてあるのを見つけた。

 不安を感じつつ封筒を手に取って中を見る。

 中には手紙が入っていた。


『エリオット様、皆さま、ご迷惑をおかけすることをお許しください。
これ以上誰の邪魔もしないように、セラフィーナは自分で命を終わらせようと思います。
エリオット様、アメリア様とどうかお幸せに』


 手紙を持つ手が震えた。

 なんなのだ、これは。まるで遺書ではないか。

 どういうことだ? セラフィーナはまさか、俺がアメリアと結婚できるように自ら命を絶ったと言うのか?


 しばらく呆然として動けなかった。

 しかし、こんなところでぼんやりしている場合ではないとすぐに思い直す。
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