「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「セラフィーナがいなくなった! すぐに兵を出して探せ!!」

 本宮殿に戻ると、俺は臣下に向かって叫んだ。

 臣下たちは驚いたように顔を見合わせている。

「殿下、一体どうなさったのですか?」

「セラが別邸から消えていたんだ! その上、セラの部屋に遺書のようなものがあった。一刻も早く見つけ出さねば危ないかもしれない!」

 セラの部屋から持って来た手紙を見せると、臣下達は途端にざわめき出した。


 それから、城中の兵を集めてセラの捜索を行わせた。

 しかし、なかなかセラは見つからない。

 臣下には止められたが、自ら城の外に出て馬に乗りセラの姿を探した。それでも彼女はどこにもいなかった。

 不安が胸を埋めていく。セラはどこへ行ったんだ。

 まさか、すでに……。


「エリオット殿下! 崖でセラフィーナ様のものと思われるショールが発見されました!」

「何? セラ本人はどこへ行った」

「それが、セラフィーナ様自身の姿は見あたらず……」

 兵士は青ざめた顔でそう報告してくる。

 俺は兵士の横をすり抜け、急いでセラのショールが見つかったという崖に向かった。

 森を入った先にあるその崖は、下がよく見えないほどの高さがあり、落ちたら人が生きていられるようには見えなかった。

 崖のそばでは、兵士たちが難しい顔で話し合っている。

 近づくと、兵士の一人が見覚えのある白いショールを持っているのが見えた。俺はふらふらとそちらへ近づいた。


「エ、エリオット殿下!」

「それを見せろ」

「いえ、殿下、まだセラフィーナ様のものと決まったわけではございませんので、どうか……」

 俺は言い訳するようにショールを隠そうとする兵士から、無理矢理ショールを奪い取る。

 それは、間違いなく俺が以前セラに渡したショールだった。ショールの端は赤い血で染まっている。


「これは……セラの血か?」

 呆然とショールを見つめながら呟いた。血の付いたショールと、目の前にある崖。

 嫌な想像が頭に広がっていく。

「殿下! 先ほども申し上げた通り、まだセラフィーナ様のものと決まったわけではありません!」

 兵士は慌てた様子でそう言うが、俺には気休めにしか聞こえなかった。


「……これはセラフィーナのものだ。俺が渡したものなのだから見間違うはずがない」

 そう告げると、兵士の顔が痛ましそうに歪む。

 足元から力が抜けていった。

 セラは本当に消えてしまったのだろうか。あの高い崖から落ちて。


「セラ……」

 自分でも驚くほど弱々しい声が口から零れた。

 こんな簡単にセラが死ぬはずがない。

 しかし、そう思っていても胸に絶望が広がっていくのを止めることができなかった。
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