「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「勝手に入ってごめんなさい! ちょっと人がいないか探していて……」

「いや、この店は俺のじゃないしそれはいいけどさ。よくこの町に入って来れたね。苦しくないの?」

「苦しい? いいえ、全く……」

 不思議に思いながら言葉を返すと、男性はさらに驚いた顔になる。


 正面から真っ直ぐ見てみると、その人は私とそれほど年が変わらないように見えた。

 明るいオレンジの髪に水色の目。

 私はエリオット様の顔が世界で一番美しいと思っているけれど、この人も負けないくらい綺麗な顔をしている。

 服は真っ黒で、騎士服のような、文官の制服のような、ちょっと不思議な恰好だった。

 この人は誰なのだろう。

 ここの住人ではないらしいけれど、制服のような服を着ていると言うことはラピシェル帝国の役人か何かなのだろうか。

 先ほど家を見回していた様子からもそんな気がする。


「君は一体どこから来たの?」

 向こうも同じ疑問を持ったようで、まじまじとこちらを見て尋ねてきた。

 なんて答えようかと、シリウスと顔を見合わせる。

 サフェリア王国から死んだことにして逃げてきた王太子の婚約者だなんて、正直に話すのはまずいだろう。

 答えに迷う私に、男性は真剣な顔で近づいて来る。


 私の前に立った彼は、私の目をじっと見つめてきた。

 緊張で体が強張る。

 まさか、隣国の(一応は)王族関係者だと気づかれただろうか。

 私は公の式典などにはほとんど出席させられなかったので、他国の人に顔がばれている可能性は薄いけれど、隠されていたわけではないから知っている人がいても不思議はない。

「君さ、よく見たら……」

「は、はい……」

 真っ直ぐに見つめられ、私は落ち着かずに視線を彷徨わせた。


「めちゃくちゃ可愛いね!? 本当にどこから来たの? この近くの街の子!?」

「えぇ……?」

 男性は私の手を取って、弾んだ声で言った。

 私は呆気に取られてしまった。私の髪に隠れるように肩に載っていたシリウスが、『何こいつ』と呆れた声で呟く。


「あ、ありがとうございます……? 少し遠くの街から旅してきたところです」

「へぇー! 名前はなんて言うの? あ、人に尋ねる前に自分から名乗らなきゃだよね! 俺はルーク・アーレント。帝国の魔術師団に所属して、陛下や皇女様にいつもこき使われてるんだ」

 ルークさんと言うらしいその人は、そう自己紹介してくれる。

 それにしても、帝国の魔術団に、陛下や皇女様。この人は割と帝国でも上の方の立場にいる人なのだろうか。

 シリウスが、『セラ、気をつけなよ』と耳打ちしてくる。私はその言葉に小さくうなずいた。
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