「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「言いたいことはそれだけか?」

 不機嫌な声が聞こえて顔を上げると、先ほどまでより一層眉間の皺を深くしたエリオット様がこちらを睨んでいた。

「ええと、婚約解消する手段がないから困っているのですよね。申し訳ありません」

「そうではない。何か反論はないのか? お前は次期王妃がアメリアに変わってもいいのか」

「それは……、悲しいですけれど、仕方ないことだと思います」


 三年ほど前に精霊師の力が発現したアメリア様は、私などよりもよっぽど次期王妃にふさわしい方だ。

 精霊を自在に操り、国境に結界を張り、傷ついた兵士たちを癒し。日々王国を守っている。

 それに対して、私は塔の上で精霊に力を送り続けるだけ。 

 アメリア様が王妃になるというのなら、私に反対する気はなかった。

 もちろん、幼い頃から慕ってきたエリオット様が別の女性と結婚するのはつらいけれど、個人の感情を挟むわけにはいかない。


「そうか。お前にとって次期王妃の座など、捨てても問題ない程度の認識でしかないのだな」

 吐き捨てるようにエリオット様が言った。

 私は戸惑いながら彼を見る。

「エリオット様、そんなことは……」

「その程度の意識しかない女が次期王妃になるなど先が思いやられる。本当にアメリアが婚約者だったらよかったのだが」

 エリオット様は難しい顔で言う。

 それを横で聞いていたアメリア様は、にっこり微笑んだ後、私に同情したような視線を向けた。


「そ、そうですよね……。私ったら本当にダメで……」

「本当にわかっているのか? アメリアのように能力の高い精霊師が現れた以上、本来ならお前は必要ないのだぞ。しかし、俺の婚約者だから仕方なく王宮に置いてやっているんだ」

「はい、エリオット様には深く感謝しております」

 十歳の頃、冷遇されていた生家から私を連れ出してくれたのはエリオット様だった。それ以降、私はずっと彼に恩を感じている。

 私が頭を下げると、エリオット様は少し機嫌が良くなったようで、先ほどまでよりもいくらか柔らかい声で言った。


「まぁいい。出来損ないとはいえ、シャノン家の精霊師がいれば王家に箔が付く。お前が今まで通り国のために力を使い、俺とアメリアのことに口出ししないというのなら婚約者のままでいさせてやろう」

 エリオット様の寛大なお言葉に、私はほっと胸を撫で下ろす。

 しかし、アメリア様が横から焦ったような声で言った。
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