「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 精霊の亡骸をぽいっと茂みに放り投げてから、私は溜め息を吐いた。


 私には精霊を自由に動かす才能がある。

 私が頼めば、精霊は水のないところに泉を生み出し、荒れ地に木を生やしてくれる。

 しかし、その能力はただの張りぼてだった。


 泉はしばらく経つと干上がり、木々は枯れてまた荒れ地に戻ってしまう。

 何とも意味のない能力だ。

 私の能力は、本来その精霊が持つ以上の力を与え、様々な奇跡を起こさせる力らしいのだけれど、それが逆に問題だった。

 本来以上の力を使い続けた精霊は、いくらも経たないうちに死んでしまう。

 張りぼてというか、精霊を無駄に消費している分、悪質な能力なのかもしれない。


 そのことを知っていたので、私は自分の能力のことを誰にも言わなかった。

 ただの張りぼてを作る能力では、いくら精霊を自由に使えても何にもならないから。

 私はしがない男爵令嬢として成長し、時が来るとほかの貴族の子たちと同じように王立学園に入学して、そこでも普通の生徒として生活していた。


 最初は自分の生活に不満なんて抱いていなかった。

 しかし、学園生活を送っていく中で、周りとの格差を感じ始めた。

 何しろ国中から貴族の家の子が集まる学園だったので、上を見ればきりがない。

 みんながみんな私より恵まれている気がして、悶々とする日々を過ごした。


 いい家のご令嬢たちが、同じくらいの家格のご令息と婚約したり、王宮の侍女として取り立てられたりするのはまだ理解できる。

 しかし、私と同じく下位貴族出身の者でも、精霊を操る能力に長けている者は家格が上の家から縁談が来たり、本来なら手の届きそうもない王宮での職を手に入れたりしているのだ。

 この国では精霊もそれらを操れる精霊師も崇められていたので、精霊師の能力を持った者はそれだけ優遇されていた。

 私だって精霊を操ることが出来るのに。

 自分の能力が張りぼてなのを理解してはいたけれど、なんだか自分だけが損している気分で苛立ちが募った。


 そんな時、学園の授業の一環で、王宮で働く精霊師たちの仕事を見学しに行く機会があった。

 成績優秀な生徒数人が参加する授業で、私は精霊が見えることは隠していたものの座学では成績上位にいたので、その中に加わることになった。

 一日精霊師について、その仕事を見て回った。


 その帰り、王宮内の塔の前を通った。

 塔からは緩やかな光が漏れ出している。誰かが精霊に力を送っているのだろう。

 私の近くを飛んでいた精霊が、光にあたるとうっとりと目を細めるのが見えた。

 よほど心地いいのか、あちこちから精霊が塔のそばに集まって来ている。


(なにこれ……こんなの初めて)

 私にはその力は衝撃だった。しかし、一緒に見学に来ていた生徒は誰も驚いておらず、精霊師たちも何も言及しない。

 それを不思議に思いながらも、黙って精霊師たちの話を聞いていた。
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