「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 王宮に着くと、私はセラフィーナ様が今後力を送る場所に行って、先回りするようにパフォーマンスを始めた。


 セラフィーナ様の力によってこの先川が出来るであろう場所に一瞬で川を作る。

 セラフィーナ様が数年前から力を送り続けた荒れ地に、先回りして森を作る。

 みんな地道な功績なんかより派手なパフォーマンスを好むから、あっという間に私の人気は上がって行った。


 私が精霊に作らせた川も森もそのうち消えるだろうけれど、消える頃にはセラフィーナ様が張りぼてではない川や森を作ってくれるだろうから大丈夫。

 セラフィーナ様にはこの先も安定のために力を送り続けて下さいね、とか適当なことを言っておけばいい。


 私の人気が上がるのと同時に、元から王太子の婚約者としてふさわしくないと言われていたセラフィーナ様の評判はどんどん悪くなっていった。

 ある日、私は王太子のエリオット殿下にお願いして王宮の案内をしてもらった。

 わざとセラフィーナ様のいる別邸の前を通り、彼女が出てこないか待ってみる。

 期待通りに花壇に水遣りに出てきた彼女は、エリオット様と私が一緒にいるのを見て、一瞬顔を強張らせた。

 しかし、すぐさまその表情は柔らかな笑みに代わり、こちらに向かって会釈してくる。


(いい気味。王太子殿下の婚約者といえど、私には何も言えないのね)

 たかだか男爵令嬢である私が、王太子の婚約者でシャノン公爵家のご令嬢であるセラフィーナ様の手出しできない立場にいる。

 それは胸をくすぐる体験だった。


 これからも、セラフィーナ様がいる限り私の生活は安泰だ。

 私は精霊を自在に操る聖女として、ずっとちやほやされたままでいられる。


 みんな私を崇めていて、セラフィーナ様の代わりに私が殿下の婚約者になったらいいのにと言っている。

 それもいいかもしれない。

 私が王妃になって、慈悲深い私はセラフィーナ様にも側妃としての立場を与えてやるのだ。

 そうしたらセラフィーナ様を一生あの別邸に閉じ込めて、私の裏方をさせればいい。


 私の未来は明るかった。

 セラフィーナ様にはずっと私のために働いてもらわないと。


***


 ……私の未来は明るかったはずなのに。

 セラフィーナ様がいなくなったとはどういうことなのだ。


「どうしてくれるのよ……! 私の力はただの張りぼてなのに……! セラフィーナ様がいなかったらそれがバレちゃうじゃない!!」

 私の精霊師としての仕事は、この先もびっしり詰まっている。

 今さら私の能力はまがい物でしたなんて言えるわけがない。

 王家を騙して精霊師になったのだと知れたら、最悪処刑されるかもしれない。


「アメリア様、お迎えに上がりました。本日は北の荒れ地で精霊に力を送っていただきます」

「……今行くわ」

 迎えに来た精霊師に仕方なく返事をして、私は出かける準備をする。


(……大丈夫。綻びが出始める前に、セラフィーナ様を連れ戻せばいいのよ)

 何とか自分にそう言い聞かせた。

 しかし、このままセラフィーナ様を見つけられなかったらと考えると、恐怖で足元がふらついた。
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