「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「な、何を言っている。愛などという感傷的なものではない。俺はセラフィーナが一番都合がいいから、どうしてもセラフィーナを妃にしたいだけで……」

「そうですか、そうですか……! そこまで私の娘を……!」

 お父様は感動した様子でエリオット様を見ている。

 私は予想外の光景に唖然とすることしか出来なかった。

 一体どういう心境の変化なのだ。


 お父様は、そうは見えなかっただけで本心ではセラフィーナを可愛がっていたということ?

 ……いや、そんなはずはない。

 私は幼い頃から、お父様がセラフィーナを怒鳴りつけたり、庭へ放り出したりするのを見てきた。

 愛ゆえに厳しく接していたわけではないはずだ。それならば物置部屋に押しやって、服も食事も与えず放置するはずがない。

 今回の行方不明の件だって、お父様は心配するそぶり一つ見せなかった。


「まさか、エリオット殿下があのような出来損ないをそこまで想っていてくださるとは思いませんでした。私や陛下に対しての当てつけなのだとばかり……。ああ、私はなんて愚かだったのでしょう」

 お父様の意識はむしろ、セラフィーナよりもエリオット様に向いているような気がした。

 いつもとは全く違う表情で、熱に浮かされたようにエリオット様を見ている。

 お父様はなぜこんなに喜んでいるのだろう。

 セラフィーナが気に入られている様子で、王家との繋がりが出来そうなことがそんなに嬉しいの?

 そのセラフィーナが今行方不明で、見つかるあてもないというのに?


「シャノン公爵、どうしたんだ。お前おかしいぞ」

「申し訳ありません、あまりに嬉しくて……。あなたが……王妃様の血を引くあなたがセラフィーナを愛してくださるなんて」

 お父様の様子はどう見ても異常だった。

 エリオット様に不審そうに見られても、構わずよくわからないことをしゃべり倒している。


 一体これは何なの?

 エリオット様に取り入るチャンスだというから、王宮までやって来たというのに。私の立場はどうなるのだ。

 大体王妃様って何? なんで今王妃様が出てくるわけ?


 私は何とも不愉快な気分で、エリオット様とお父様の会話を聞いていた。

 エリオット様をじっと見つめるお父様の目は、エリオット様ではなく別の誰かを見ているような気がした。
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