「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 しかし、褒め言葉にぽわぽわしていた私に、ルークさんはとんでもないことを言い出した。

「そうだ、セラちゃん! 今度一緒に帝都に行こうよ! 陛下や皇女様にセラちゃんの活躍を報告しなきゃ!」

「え、いや、それは……!」

 ルークさんは名案だとでもいうようにそう提案してくる。

 しかし、私には出来るはずもないことだった。


 陛下や皇女様とお会いするなら、どこの誰だかは秘密ですなんて通らないだろう。きっと素性を詳しく調べられるはずだ。

 そうしたら、私がサフェリア王国のシャノン家の娘で、王太子の婚約者だったということがわかってしまう。

 せっかく身投げしたことにして、祖国から逃げてきたというのに。


「そ、その、私みたいな者が皇族の方々にお会いするなんて恐れ多いですから」

「謙遜することないよ。セラちゃんの力は国に称えられるべき力だって! 功績はちゃんと陛下たちにも知ってもらうべきだ」

「本当に大丈夫です! 私はひっそり生きられれば十分なので!」

「えー、もったいないなぁ」

 必死で断るけれど、ルークさんは納得がいかなそうなままだった。

 私の肩に座っていたシリウスが、ぴょんとルークさんの肩に飛び乗って言う。


『しつこいよ、ルーク。セラが嫌だって言ってるんだから諦めてよ。僕も皇族に会うなんて反対だし。セラがまた搾取されたら困る』

「搾取なんて俺がさせないよ。俺はただセラちゃんの能力を正しく知ってもらおうと……」

『それでもだめ。ルーク、もしも陛下や皇女がセラの能力を欲しがって国に繋ぎとめようとしてきたら、本当にセラを守れるの?』

「大丈夫だって! 何も心配すること……」

『今だって精霊関係のことさえ皇女様に信じてもらえないのに?』

 シリウスは疑わしげな目でルークさんを見ながら言う。

 ルークさんは言葉に詰まった後、苦い顔でうなずいた。


「……そうだね、セラちゃんの意思が第一だね。無理言ってごめん。ただ、この才能を隠しておくのはもったいないと思っちゃって」

「いいえ……! いいのです! でも、私はひっそりつつましやかに生きられれば十分ですから!」

 ルークさんが納得してくれたことに安心しながら、私は両手を振って言葉を返した。

 それから私の肩に戻って来たシリウスに、小声でお礼を言う。


「ありがとう、シリウス。帝都に行くことになったら大変だったわ」

『ううん。しつこい男は嫌だね、まったく』

 シリウスは呆れた顔をしながらも、どこか得意そうにそう答えた。


***

 それからも、ティエルの町からレピドの町へ通う日々が続いた。

 レピドの町には順調に精霊が戻って来ていたけれど、心配なのはむしろティエルの町の方だった。

 ここに来てからまだ二週間ほどしか経っていないと言うのに、空気は驚くほどの速さで淀んでいく。

 体に瘴気が巻き付いて苦しそうにしている人も頻繁に見かけるようになった。


「ルークさん、なんだか空気が淀んでいますよね……。精霊の数も明らかに減っていますし……」

「うん、こんなペースで進むとは思わなかった」

 ルークさんはどこか苦しそうに道を歩いている町の人々を見ながら、難しい顔で言った。

 つられるように私も人々を見渡して、広場の奥に見覚えのある銀色の髪に白い服の男性が目に入った。
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