「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「ルークさん、あれ、司教様ですか?」

「え? あ、本当だ。司教様がいる」

「あれはお店か何かをやっているのでしょうか」

 広場の一角に可愛らしく装飾された机と台車とがあって、そこに司教様と数人の子供たちが並んでいた。

 司教様は相変わらず厳めしい顔をしており、周りにいる十人ほどの子供たちも厳しい顔つきをしている。

 せっかく可愛らしいお店を作ってあるのに、何ともどんよりした雰囲気だ。


「あれは教会のバザーだよ。毎週日曜日の午後は、司教様が教会で面倒を見ている孤児の子を連れて物を販売しているんだ」

「へぇ! バザーなんて素敵ですね!」

 当然私はバザーなんて行ったことがなかった。

 気になってうずうずしていると、ルークさんがおかしそうにこちらを見る。


「行ってみる?」

「行きたいです! いいんですか?」

「もちろん。司教様、俺の顔見たら怒るかもしれないけど何か買うなら許してくれるでしょ」

 ルークさんは明るくそう言って、司教様たちの方に近づいていく。


 近づいてみると、広場にはたくさんの人がいるのに、バザーではほとんど誰も買い物をしていない様子だった。

 みんなお店にちらりと目をやるだけで、すっと通り過ぎてしまう。


「あははっ。あの人本当不愛想だよね。あの顔で店番してたら絶対みんな怖がるって」

 ルークさんは司教様を見て笑いながら言う。

 いかにも不機嫌そうに座っている司教様を見ていると、否定できなかった。


 私たちが店の机の前に近づくと、司教様は驚いた顔をした後、思いきり嫌そうに顔をしかめた。

「……ルーク・アーレントと、あのうさんくさい精霊師か……。一体なんのようだ」

「相変わらず失礼な奴だな。うさんくさい精霊師じゃなくてセラちゃんだよ。せっかく買い物に来てあげたのに」

「お前達に売るものなどない」

「強がるなよ。ほかに誰も客が来てないのに」

 ルークさんの言葉に、司教様はどんどん不機嫌な顔になっていく。


 ルークさんが司教様と話しているのを見ていると、シリウスが私の肩からぴょこっと顔を出した。

『セラ、わざわざこんなやつのとこで買い物することなんてないのに』

「だって、バザーなんて初めてなんだもの……!」

『だからってあの司教様と関わらなくても』

 シリウスは嫌そうに司教様を見ながら言う。

 私がシリウスとこそこそ話していると、いつの間にかルークさんが子供たちに囲まれていた。


「ルークお兄ちゃん、来てくれたの?」

「ルークさま、このクッキー私が作ったの! 食べて!」

「ルークお兄ちゃん、今日も買い物して行ってくれるでしょ?」

 さっきまで厳しい顔つきをしていた子供たちは、ルークさんの手を引っ張ったり、足にしがみついたりして競うように話しかけている。


「みんな久しぶりー。今日は何売ってるの? 見せて見せて」

 ルークさんは頬を緩めて、子供たちを順番に撫でたり抱きかかえたりしながら、お店を覗き込んでいた。


『あいつ子供に好かれるんだ』

「ルークさん、明るくていい人だからいかにも小さな子に好かれそうよね」

『そうだね。子供っぽい大人って子供に好かれるし』

「まぁ、シリウスったら嫌な言い方ばかりするんだから」

 私は肩に乗ったシリウスと話しながら、ルークさんが子供たちに囲まれているのを見守る。

 すると、横から悲痛な声が聞こえてきた。
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