「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 結局、その日はクッキーのほかにも刺繍のされたハンカチや、古着をアレンジしたお洋服、手作りの小物入れなど、色々なものを買ってしまった。

 バザーで買い物すること自体もそうだけれど、欲しいと思ったものを自由に買うこと自体ほとんど経験がなかったので、とっても楽しかった。

 帰り際、てきぱき荷物をまとめてくれたふわふわ髪の小さな女の子が紙袋を差し出してくれながら言う。

「セラちゃん、はいどうぞ! また来てね!」

「ありがとうございます。絶対また来ますね!」

 私が答えると、今度は後ろにいた小さな男の子が私の服を引っ張りながら言う。


「セラちゃん、今度は教会にも来れば? ルークお兄ちゃんと一緒に」

「いいんですか? ぜひお邪魔したいです」

「いいね。今度遊びに行こうか。司教様、いいよね?」

 ルークさんがそう言うと、司教様は心底不愉快そうな顔をしてそっぽを向いてしまう。

 それを見てルークさんは苦笑いした。それから子供たちの方に向き直って言う。


「セラちゃんとまた遊びに来るね。今度はお土産たくさん持ってくるから」

 ルークさんが言うと、子供たちはぱっと笑顔になる。

 子供たちに手を振られながら、私たちはバザーを後にした。


***

 ティエルの町での暮らしは順調だった。

 ルークさんの用意してくれた宿で寝泊まりして、昼間はレピドの町まで出かけて精霊に力を送って。

 夕方、ティエルの町まで帰ると、ルークさんは食堂や洋服店や美術館など、色んな場所に案内してくれた。

 約束通り、お土産を持って教会まで子供たちに会いに行ったりもした。司教様に怒られないように裏口からこっそりと。

 初めてのことばかりの日々で、とても楽しかった。


 しかし、平穏な日々が続いていたある日、明らかな異変が現れ始めた。

 町に来て一ヶ月ほどが経った頃だろうか。

 ティエル町の住民の多くが、原因不明の病に苦しめられるようになったのだ。

 朝、いつものように宿の部屋まで迎えに来てくれたルークさんは、町の状況について簡単に説明してくれた。


「どうにも様子がおかしいんだ。ここ最近、急激に体を壊す人が増えて病院でも診きれなくなってる」

「それは……やはり瘴気が増えているからでしょうか」

「多分ね」

 町に蔓延する瘴気は、いよいよ無視出来ないほど濃くなっていた。

 空気が淀んで、瘴気にあまり影響を受けない性質らしい私も時折息苦しくなることがあるくらい。

 試しに精霊に力を送って呼び戻せないか試してみたことはあるけれど、町全体の精霊を拒む空気を感じ取るのか、精霊は戻って来てもすぐにどこかへ消えてしまった。


「司教様は相変わらずラピス様しか信じてないからなぁ」

 司教様も瘴気に対して何もしていないわけではなく、むしろ懸命にどうにかしようと奔走しているようだった。

 聖典で定められた邪気払いの儀式を行ったり、病にかかった人々を集めて瘴気に効くとされる薬を与えて看病したり。

 しかし、一向に事態が好転する様子は見られない。


「セラちゃん、今日はレピドの町へ行くのをやめて、この町にいる病人を診てもらえないかな……。セラちゃんが一時的にでも精霊を呼び戻してくれれば、瘴気に苦しめられている人たちも楽になると思うんだ」

「はい。私でお役に立てるならもちろん」

 ルークさんに申し訳なさそうに頼まれ、すぐさまうなずいた。

 私で役に立てることがあるなら何でもしたい。
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