「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「あれ……? 苦しくなくなった……?」

 青年は目をぱちくりして不思議そうな顔をしている。

 途端に後ろから歓声が上がった。

「すごいです、セラさん! さすがはルーク様が見つけてきた逸材!」

「精霊をこんなにたくさん呼び寄せられる方初めて見ました!」

「いえ、あの……」

 あまりに勢い込んで褒められるので、戸惑ってしまう。

 ベッドで寝ていた青年も、目に涙を溜めて頭を下げてきた。

「あなたが治してくれたのですね。ありがとうございました……!」

「い、いえ、私ではなく精霊が……! お礼ならそこにいる精霊さんたちにお願いします! 私はあの子たちに頼んだだけですから!」

 私は慌てて説明した。

 瘴気を払ったのは私ではなく精霊たちだ。

 魔術師団の方達ははっとしたように精霊を見ると、人間にするように丁重に頭を下げていた。

「精霊……がそこにいるのですか?」

 青年の方は戸惑った様子で、私が手で指し示した方向を見ている。この人は精霊が見えないのだとわかった。

「そうですよ。ここにいる精霊たちが瘴気を払ってくれたんです」

「そう……なのですか。それは、ええと、ありがとうございました……」

 青年は戸惑い顔のままで頭を下げる。

 お礼は言ってくれたものの、多分あまり信じてはいないのだろう。見えないものを信じろと言われても無理があるのかもしれないけれど、少し寂しくなった。

 精霊はまだ立ち去ろうとはせず、ほわほわと家の中を飛んでいた。


「セラちゃん、ありがとう! 早速次の家に移ろう!」

「は、はい!」

 後ろからルークさんに肩を叩かれる。

 私はすぐさま返事をして立ち上がった。それからまだ家の中に残っている精霊にもう一度お礼を言って、ルークさんたちとその家を後にした。


 それから、何件もの家を回った。

 日が落ちるまで家を回り続け、くたくたになりながら町を歩いていると、教会の前を通りかかった。あの精霊嫌いの司教様のいる教会だ。

 教会の前は外の石畳にまで簡易ベッドが置かれ、瘴気に覆われた人々で溢れていた。


「本当に大変な状況なんですね……」

「そうなんだよ。司教様、魔術師団も手伝いに行くっていっているのに頑なで」

「何かお手伝いさせてもらえたらいいのですが……」

 司教様は、シスターとともに懸命に病人を看病していた。重そうな荷物を運んで、一人一人に真剣な顔で声をかけて。

 この前も思ったけれど、悪い人ではないのだろう。

 ちょっと不愛想で精霊嫌いなだけで。

 どうにか協力したいけれど、司教様は精霊師の私なんて必要としてくれないのは予想がつく。
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