「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 メアリーちゃんに声をかけていた司教様は、ゆっくりこちらを振り返る。それから固い表情で口を開いた。

「……精霊師。うさんくさいなどと言って悪かった。礼を言う」

「いえ、気にしないでください! それと私よりも瘴気を祓ってくれた精霊さんたちにお礼をお願いします!」

 私はメアリーちゃんの周りをパタパタ飛んでいる精霊たちを指し示す。

 すると司教様は先ほどよりもさらに固い顔になった。

「…………そこにいるのか知らないが、いるのなら精霊たち、メアリーを助けてくれたこと感謝する」

 司教様は顔をうっすら赤くして、苦々しい顔でお礼を言った。

 精霊たちは怪訝な顔で司教様を見ている。


「司教様! 司教様が精霊を信じてくれたみたいでよかったよ! これからはティエルの町でも精霊を大事にしてくれるよね?」

 ルークさんは司教様の肩に腕を回して、楽しそうに言う。司教様は嫌そうな顔でルークさんの腕を振り払った。

「それとこれとは話が別だ」

「そんなこと言っていると精霊がまたどこかに行って、メアリーちゃんやほかの子供たちに被害が出ちゃうよ?」

「ぐ……それは……」

 司教様は顔を顰め、考え込んでしまった。それから随分葛藤した後で、たいそう不服そうな声で言う。

「……わかった。これ以上町に病人が増えては困るからな。精霊に対する方針は変える」

「さっすが司教様! 話がわかる! じゃあ、来週までに精霊を祀る儀式の準備しておいてね!」

「……儀式までやらなければならないのか。精霊の扱いは面倒だな……」

 司教様はルークさんの言葉に苦りきった顔をした。

 そんな司教様の服の袖を、メアリーちゃんが引っ張った。

「司教さま、メアリーも儀式の準備手伝います」

「……そうか。それなら足手まといにならないように早く体を治せよ」

 さっきまであれほどメアリーちゃんを心配していた司教様は、素っ気ない口調で言う。メアリーちゃんは頬を緩めて笑っていた。


 その後、魔術師団の方が宿の人に頼んで、司教様とメアリーちゃんは今晩はこの宿に泊まれることになった。

 ホールを出て、魔術師団の方たちが散り散りに部屋に帰って行く。メアリーちゃんを抱えて立ち上がった司教様は、ホールを出る前にこちらを振り返ると、躊躇いがちに言った。


「精霊師……セラとか言ったか。お前、子供たちに会いに来るなら今度は教会の裏口じゃなくて、正面から入ってこい」

「気づいてらしたんですか!? そして正門から入っていいのですか!?」

「気づくに決まっているだろう。……子供たちも喜ぶし、好きなときに来い」

 司教様はそう言うと、ぷいっと顔を背けて歩き出してしまった。


『素直じゃ無いやつっていちいち面倒な言い回し考えなきゃならなくて大変だね』

 私の肩の上で、シリウスが呆れた調子でそう言った。

 私はついくすくす笑ってしまう。


「セラちゃん、ありがとう。セラちゃんのおかげでまた一つうまくいったよ」

 ルークさんが晴れやかな顔でそう言ってくれる。

 私でも何か役に立てているのだろうか。出来損ないで、祖国では誰にも必要とされなかった私でも。

 もしそうなら、ずっとここでルークさんたちに協力していたいなと思った。

 今まで感じたことがないような、満たされた気持ちが胸に広がっていくのを感じていた。
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