「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「セラちゃん、エリオット様って……前に言ってた……」

 現れたエリオット様を見て固まっていたルークさんが、私の横に来て驚いた様子で尋ねてきた。

「……はい。こちらが以前お話ししたエリオット様です」

「い、いや、この人……どう見ても……サフェリア王国の王子殿下だよね……!?」

 ルークさんは驚愕を隠しきれない顔で、私とエリオット様を交互に見ていた。


「ってことは、セラちゃん。まさかセラちゃんって……」

「お前が兵士の言っていた魔術師か」

 私に向かって焦った顔で何か尋ねようとしてきたルークさんを、エリオット様が不快そうな顔で遮る。

「あ、はい。ルーク・アーレントと申します。帝国の魔術師団に所属しています。セラちゃんには精霊のことで色々協力してもらっていました」

「そのセラちゃんと言うのはなんだ。馴れ馴れしい。セラは王太子である俺の婚約者だぞ」

「ええええ……。やっぱりセラちゃん、サフェリア王家の関係者なんだ……。しかも王子の婚約者なんだ……」

 ルークさんは目をぱちくりして、呆気に取られた顔をしていた。

 不機嫌な顔をしていたエリオット様が、こちらに向き直る。


「こんな奴のことはどうでもいいんだ。セラ、早く王国へ帰ろう」

「え、ええっと、エリオット様……」

「どうしたんだ? 何か帰りたくない理由でもあるのか」

 帰ろうと言われているのに、なぜだか気乗りしない。


 エリオット様はすぐにでも馬車へ乗るよう言っていたけれど、私は「宿に荷物があるからその前に取りに帰りたいんです」なんて、言い訳するように言ってしまった。

 実際、宿にはわずかながらに荷物があるので取りに帰りたいのは確かだ。

 けれど、本心ではそれは口実で、馬車に乗るまでの時間稼ぎをしたいのだと気づいていた。


 エリオット様は不満そうにしつつも、一応は宿に戻ることを許可してくれた。

 司教様や子供たちにはろくな挨拶も出来ないまま、呆気に取られた顔をしている彼らにどうにか大まかに事情を説明して別れるしかなかった。

 結局、彼らが準備してくれた精霊の儀式には参加出来ないで終わってしまった。


 兵士に囲まれながら、エリオット様と馬車で宿まで向かう。

 エリオット様はルークさんにも来なくていいと言っていたけれど、宿に入るには魔術師団員である自分の許可が必要だからと押し切ってついて来てくれた。


 宿の前まで来ると、エリオット様は入口で待っていると言って私を送り出した。

 私は、「セラちゃんが外に出るためには俺が宿で手続きをしなければならないから」と言ってついてきてくれたルークさんと一緒に宿の門をくぐる。

 多分、手続きがあるというのは口実だと思う。おそらく心配して一緒に来てくれたのだ。
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