「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 それから、元々悪かった私の待遇は、どんどん悪くなっていった。

 部屋を物置に移され、食事をダイニングルームで取ることを許されなくなって。

 今までは一応は受けさせてもらっていた家庭教師の先生の授業も、「精霊と契約も出来ないお前には必要ない」と受けさせられなくなった。


 両親のそんな態度を見て、二人の姉は目に見えて私を見下すようになった。使用人たちもそれに習うように、私を蔑んだ。

 由緒あるシャノン家に私のような出来損ないが生まれたのは一家の恥で、家族は出来ることなら存在自体を消し去ってしまいたかったのだと思う。

 私は来る日も来る日も、薄寒い物置小屋で膝を抱え、気まぐれに分け与えられる食べ物を口にしながら、どうにか命を繋いで来た。


 いいことなんて何にもない日々だったけれど、ある日私の世界に光が差した。

 精霊のシリウスと出会ったのだ。

 ある日、私が言いつけられた庭の掃除を終えて、木の影で休んでいると、後ろからがさごそ音がして、白いふわふわした生き物が出てきた。

 驚いてその生き物を見ると、どうやら猫のようだった。真っ白な毛に、水色の澄んだ目をしたとても可愛い猫。

 しかし普通の猫ではなかった。その猫の左肩には、白い小さな羽根が生えていたのだ。

 はっとして、返事が返ってくるわけないと思いつつも、思わず尋ねる。


「あなた、もしかして精霊?」

 前に絵本で読んだことがある。

 この世界の精霊は基本的に透明な羽根の生えた人型をしているけれど、稀に動物型の精霊がいるらしい。

 他国では聖獣と呼ばれることもあるそうだけれど、この国では動物型の生き物も全て精霊と呼んでいる。

 ただ、この子が本当に精霊ならば、どうして私にもはっきり姿が見えるのかわからないけれど。

 猫は私をじっと見ると、私の膝に右足をかけてきた。


『そうだよ。君、僕が見えるんだ』

 突然猫がしゃべったことに驚いて私は固まった。

「あなた、喋れるのね」

『そりゃあね。人の言葉くらいわかるよ。君こそ僕が見えるなんて驚いた。この家の使用人なの?』

「ううん、私、この家の娘なの。そうは見えないだろうけれど」

『えっ、このお屋敷のお嬢様ってこと? 嘘でしょ? なんでそんなボロボロの服着てるの?』

 白猫は驚いた顔で口を開けている。私は苦笑いで説明した。


「私の家は精霊師の名門なのに、私は精霊をちゃんと見ることすらできないの。あなたのことはなぜかはっきり見えるんだけど。名門の家に私みたいな出来損ないが生まれたことをみんな恥だと思っているみたいで、私はいないものとして扱われているのよ」

『ふーん、なかなかいかれた家なんだね』

 白猫は目を細め、呆れた顔で言う。

 それから何かを思いついたようにぱっと目を輝かせた。

『それなら僕が契約してあげるよ』

「えっ」

 私は驚いて白猫を見た。
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