「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
 エリオット様と別れた後も、部屋に入るときまで兵士たちにぴったり張り付かれていた。

 私がまた逃げ出さないか警戒しているのだろう。

 私は息苦しさを感じながら、部屋に入って荷物をまとめる。

 せめてまだ困惑したままのルークさんにちゃんと事情を説明したかった。私は荷物を整理しながら、兵士たちの隙をついて小声で彼に話しかける。


「ルークさん、大騒ぎになってしまって申し訳ありません……」

「それはいいんだけど、セラちゃん、すごい人だったんだね」

 ルークさんは腕組みしながら感心したように言う。

 変わらず親しみやすい態度のままでいてくれることにほっとした。

 最初からもう少し事情をちゃんと話しておけば、こんな騒動に巻き込むことはなかったのかもしれない。


「でも、ちょっと納得したよ。あんなにすごい力を持ってる精霊師って何者なんだろうって思ってたから。精霊師の名門一家の生まれで王太子の婚約者だったんだね。国でもさぞ活躍してたんだろうね……」

 ルークさんは呆ほうけたような声で言う。

 名門の生まれなのも王太子の婚約者だったのも事実だけれど、言葉にされるとあまりに実際の私と違うので戸惑った。

 それに、私は王国では全く活躍なんてしていなかった。


「いえ、全然違うんです。確かに私が生まれた家は精霊師の名門ですが、私は精霊をろくに操れないので出来損ないと言われて育ちました。エリオット様が婚約者に選んでくれたのは確かですが、それはシャノン家の令嬢の中から一人選ばなければならないから仕方なくで、いつもうんざりされていました。全くすごい人なんかではないんです」

 誤解を解くためにそう説明する。

 私はサフェリア王国で誰にも必要とされていなかった。

 だから私さえ消えればいいと、自死したことにして国を出たのだ。


「ですから、ルークさんが私の力を褒めてくれて、協力して欲しいって頼んでくれたことすごく嬉しかったんです。短い間でしたがとても幸せな時間でした。ありがとうございました」

 そう言ってルークさんに向かい頭を下げる。逃亡してから楽しく生活してこられたのは、全部ルークさんのおかげだ。

 しかし顔を上げてルークさんを見ると、彼の顔は強張っていた。

 いつも笑っているルークさんのそんな表情に戸惑う。


「ルークさん?」

「セラちゃん、それどういうこと……? セラちゃんはサフェリア王国で大切にされてきたんじゃないの? 大切にされてたから、エリオット様があんなに必死な顔で迎えに来たんだよね?」

「大切に……とは言えないかもしれませんが、私に合った待遇ではあったと……。エリオット様には感謝しておりますわ」

「いや、そんなの絶対おかしいよ! セラちゃんは洗脳されてる!」

 ルークさんは青ざめた顔で言う。

 部屋の中で待機していた見張りの兵士がじっと視線をこちらに向けるのを感じた。
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