「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
『そう! そうなんだよ! アメリアはめちゃくちゃ嫌な女なんだ! セラは嫌味に気づいてなかったけど!』

「やっぱり……。話を聞いてるだけで変な感じがするもん」

『セラが王子に用意された時代遅れのドレスを着ているとお似合いですねとか言ってお茶会に引っ張って行って笑い者にしたり、ああ、あとセラに不利な条件で勝負を持ちかけてセラを負けさせて評判を落としたこともあった。とにかく最悪なんだよ、あの女!』

 シリウスは怒った顔で説明し、ルークさんは真剣な顔で聞いている。

 私はアメリア様にドレスを褒められた時のことや、力試しをしませんかとゲームに誘われたときのことを思い返して戸惑った。

 好意だとばかり思っていたのに、あれは悪意からきたものだったのだろうか。

 ルークさんは顔を上げると、真剣な声で言った。


「セラちゃん、やっぱりその国おかしいよ。せっかくラピシェル帝国に来れたんだから、もうそんな国のことは忘れてこのままここで新しい生活始めよう?」

「でも……」

 私はなかなか答えを出せなかった。

 帝国に残りたい気持ちと、王国に帰るべきなのではないかという迷いが交互に頭を支配する。

「セラちゃん。セラちゃんにはもっとふさわしい場所があるはずだよ」

 ルークさんがそう言って手を差し伸べてきた。

 私は散々迷って、それでも差し伸べられた手を取りたいという思いが膨らんで、思わずその手に自分の手を伸ばしかけた。


 するとその時、後ろから空気を裂くような声が聞こえてきた。

「セラフィーナ!! お前一体何をやってるんだ!?」

「エリオット様……!」

 建物の影から、兵士たちを引き連れたエリオット様が姿を現した。

 こんなに奥まった場所に隠れていたのに、もう見つかってしまったみたいだ。

 ルークさんが私を隠すように前に出る。


「魔導士。お前、邪魔する気か?」

「エリオット様、あなたの国ちょっとおかしいですよ。そんな場所にセラちゃんを帰せません」

「なぜお前に口を挟まれなければならない。これは俺たちの問題だ」

 エリオット様は不快そうに眉を顰める。


「セラ。馬鹿なことはやめて早く国へ帰るぞ」

「エリオット様……」

 エリオット様に呼ばれても、なかなか足が動かない。

 なかなか動かない私を苛立たしげに見ていたエリオット様は、低い声で言った。


「セラフィーナ。あまり強情を張るようなら、帝国の皇帝に伝えさせてもらうぞ。お前の国の魔導士が我が国の次期王太子妃を攫ったとな」

「エリオット様……! 攫ったなんてそんな……!」

「俺が迎えに来たにも関わらずセラを連れて逃げたのに、誘拐以外のなんだと言うんだ。どんな罪に問われるだろうな」

 エリオット様は愉快そうに笑いながら言う。

 私は唇を噛んだ。そんなことを言われては、私に選択肢なんてない。

 ルークさんがエリオット様に向かって困った顔をして言う。

「ちょっとエリオット様。そんな脅すような言い方はないんじゃ……」

「脅す? 俺は何も間違ったことは言っていないだろう」

「そもそもエリオット様のセラちゃんへの扱いがあんまりだからこんなことになってるのにさぁ」

 エリオット様とルークさんが言い争っている。

 私はそれを聞きながらぎゅっと目を瞑り、それから迷いを振り切って足を踏み出した。

「……ルークさん、私やっぱり帰ります」

 私がそう言うと、彼は目を見開いた。
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