「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「それよりセラ。王宮の外へ出たときのことをもっと詳しく教えてくれ。この一ヶ月あまり一体どうしていたんだ?」

 尋ねると、セラはぽつぽつと話し出した。

 王宮をこっそり抜け出した後は、腕に傷をつけてショールを赤く染め、それを崖の木に落としてから逃亡したらしい。

 それからマントで顔を隠しながら街や森を進み、ラピシェル帝国に不法入国したのだと。

 帝国で最初に訪れた町であのルークとかいう魔術師に出会い、瘴気で汚染された町を浄化するために精霊を呼び戻しながら暮らしていたのだそうだ。

 公爵令嬢がそんな危険な旅をしていたことに心底ぞっとした。

 無事に見つかって本当によかった。


「セラ、すまなかった……。そんなに苦労していたんだな……」

「いえ、エリオット様。帝国までの旅も、帝国での生活もとても楽しかったですわ!」

 さっきからずっと元気のない様子だったセラの目に途端に光が差す。

「何を言っている。そんな生活が楽しいわけないだろう。無理をしなくていいのだぞ」

「いえ、本当ですわ。自由で、みんなとても良くしてくれて、すごく幸せな日々でした。私の大したことのない能力をあんなに褒めてもらったのは初めてでした……」

 セラは頬を赤らめて幸せそうに言う。

 王宮を離れていた時のことを楽しいと言われて少々気分が悪くなった。

 こっちはセラがいない間、夜も眠れないほど心配していたというのに。


「王宮にいた頃よりも、帝国での生活のほうが良かったというのか。お前は俺がいなくても問題なかったのだな」

「えっ、いえ、そんなことは! 探してくださったことには感謝しております!」

 セラは慌てた様子で否定する。

 しかし俺は感謝しているなんて言葉が欲しいのではなかった。もっと喜んだ顔をして欲しいのだ。

 王宮を出る前は、もっと心からの笑顔を見せてくれたのに。


「……まぁいい。これからはまたサフェリアの王宮で暮らすのだから、帝国での生活のことは早く忘れろよ」

「エリオット様、そのことなのですが……」

 セラはおずおずとこちらを見る。

「私、ラピシェル帝国に帰ってはいけませんか?」

「は?」

 予想外の提案に言葉を失った。帰りたいとはどういうことだ。

 セラの祖国はこの王国ではないか。
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