「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
『僕は大精霊シリウス様だからね。今はちょっと羽根をかじられて力が落ちちゃってるけど』

「本当にいいの?」

『うん。君、なんかおもしろそうだし』

 白猫はにんまり笑いながらそう言った。

 猫はせかすように私の手に前足を押し付けてくる。

 私は猫の前足を握り、以前精霊の丘に行く前に教わった契約の呪文を唱えた。

 すると、私と猫の手の上に青い魔法陣が現れ、パリンと弾けるように消える。


『契約完了だね』

 猫はそう言って満足げに笑う。本当に契約出来たのだろうか。なんだか信じられない。

「これで本当に契約できたの……?」

『うん。これからは君が困ったら僕が助けてあげるよ。なんていったって僕は大精霊シリウス様だから!』

 猫はそう言ってふわふわの胸を張る。得意げな顔が何とも可愛らしい。

「ありがとう、猫さん」

『猫じゃないよ。大精霊シリウス様だって。特別に君にはシリウス様って名前で呼ぶことを許してあげよう』

「あ、ごめんなさい。よろしくね、シリウス!」

『シリウス様って……まぁ、いっか』

 白猫のシリウスはちょっと不満そうにしながらも納得してくれた。


 シリウスと契約してからは、毎日に光が灯ったようだった。

 相変わらず私は物置小屋で捨て置かれているけれど、寒い部屋でもシリウスが話し相手になってくれると寒さが薄らぐような気がする。

 シリウスは自分のことを大精霊だなんて言っていたけれど、特に大精霊らしい魔法は使えなかった。

 本人は羽根をけがしているせいだと説明していたけれど、本当かどうかはわからない。

 けれど、シリウスがそばにいてくれるなら、大精霊かどうかなんてどうでもよかった。


 私がシリウスと契約したことは、すぐにお父様たちに知られることになった。

 その頃はすでに私は家族に直接話しかけることすら許されない存在になっていて、自分からシリウスのことを報告することは出来なかったけれど、使用人の誰かが私が何か見えない生き物と話していると告げ口したらしい。

 久しぶりに呼ばれたお父様の執務室で、本当に精霊と契約したのか尋ねられた。

 私がシリウスを抱き上げて紹介すると、お父様は訝しそうに目を細め、シリウスのいる辺りをじっと見つめる。

 お父様には精霊がはっきり見えるはずだけれど、どうしてだか私とは逆にシリウスのことはよく見えないようだった。
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