「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています
「なんだ、それは猫か?」

 お父様が眉間に皺を寄せまま尋ねてくる。

「はい、シリウスは猫型の精霊のようです」

「出来損ないは契約できる精霊も出来損ないなのだな。よりによって獣型の精霊など……」

 お父様は溜め息をついてそう言った。

 シリウスのことを馬鹿にされ、悔しくて私はぎゅっと奥歯を噛む。

「お父様、シリウスはとてもいい子で……!」

「もういい。精霊と契約できたのならまた家庭教師に勉強を教えさせようかと思ったが、獣型の精霊では役に立たないだろう。部屋に戻れ」

 お父様は冷たくそう言った後、使用人に私を部屋に戻すよう命じる。それからはもうこちらを見ることもなかった。

 シリウスがお父様に向かってシャーシャー唸っているけれど、お父様にも使用人にもよく聞こえてないようだ。

 私は力なく執務室を後にした。


 物置部屋まで戻ると、私はシリウスに謝った。

「ごめんなさい、お父様が失礼なことを言って……」

『セラが謝ることじゃないよ。それにしても、この僕の偉大さがわからないなんて、シャノン公爵家の当主も大したことないね』

 シリウスは人間みたいに肩をすくめて、呆れ顔をしている。

 その後シリウスがお父様の悪口をとうとうと語り出したので、落ち込んでいた私はなんだかおかしくなってきてしまった。

 こんなに可愛くて楽しいシリウスの魅力がわからないお父様は、意外と節穴なのかもしれない。


***

 このままの暮らしがずっと続いていくのだろうと思っていたある日、思ってもみないことが起こった。

 この国の第一王子であるエリオット殿下がうちにやって来たのだ。


 私より一つ年上のエリオット殿下は、当時十一歳だった。

 どうやら王家は名門シャノン家の令嬢と第一王子を婚約させ、権力の基盤を固めたかったらしい。

 婚約する相手はシャノン家の令嬢の誰かということになっていたようだけれど、当然候補となるのは上二人のお姉様のうちのどちらかのはずだった。

 私は初めから選択肢にも入っていない。

 だから、私はエリオット殿下が来る日も、大事な来客があるから本邸には絶対に姿を見せるなとだけ言いつけられるだけで、王子殿下が公爵家にやって来ることを知らなかった。
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