後輩が転生してきた推しだと言われましても
「そんな反応されると、どうしていいかわからないんですけど」
「ひっ、ご、ごめんなさい!だって、推しが!目の前にいるって思うと無理なんですもん!いや、ごめん!気持ち悪いよね!本当にごめんなさい!」

 ズササササササ!と座りながら後退りし、結衣の背中が壁に激突する。

「うっ!」

 突然の衝撃に結衣がうめき声を上げると、類はプッ、と吹き出した。

「っ、ははは、ははは!〜はぁ。すみません、佐々木さんらしいなって思って」
「へぇっ!?」

 類は心底楽しそうに笑っている。褒められていないはずだ、それなのに、なんだか嬉しくなって結衣は照れてしまう。

「佐々木さんにとってルシエルがそこまですごい存在だとは思わなかったので、なんだか嬉しいような複雑な気持ちですよ。俺、『ルシエル』だけど『佐伯類』でもあるんで」

 類はそう言って少し寂しげに微笑み、それを見て結衣はハッとなった。

(そっか、そもそも今、佐伯君は佐伯君なんだよね。私の、大切な後輩で大切な仕事のパートナー)

「そう、だよね、ごめん。なんか取り乱しちゃった。佐伯君は佐伯君だもんね、そうだよ、目の前にいるのはルシエルだけど、佐伯君だよ!」

 結衣は自分の両手を体の両脇で握りしめ、ふんす!と鼻息を荒くする。

「っ、クク、ははは、あははは!……はーっ。なんか、佐々木さんに聞いてもらえてスッキリしました。とりあえず、俺、飲みますね」

 笑いながらそう言って、類はメニューに手を伸ばした。
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