後輩が転生してきた推しだと言われましても

二話 聞かれた会話と相談

「佐伯さん、めっちゃルシエルにそっくりですよね!」

 類が結衣の職場にやってきてから三ヶ月が経った。今、結衣は社内食堂で後輩の絵里と昼食をとっている。絵里こそが、結衣に原作の乙女ゲームを勧めた張本人だ。

「やっぱりそう思う?だよね、似すぎててびっくりした。性格まで似てるんだもん……毎日心臓に悪いよ」
「佐伯さんて結衣さんの三つ下でしたっけ。結衣さんにだけはなんか懐いてますよね」
「懐いてるっていうか、そもそも仕事上のパートナーだし。うまくやれなかったら致命的だよ」

 自分で作ったお弁当に手を伸ばし、結衣はいただきます、と両手を合わせる。

「これを機に結衣さんもゲームしましょうよ〜!小説とアニメにはハマってるんですよね?だったらゲームも!ぜひ!」
「無理無理無理!これ以上広げたら収拾つかなくなるのわかるもん。課金なんて始めた日にはきっと止まらないし……」
「ルシエルは特別ルートのレアキャラですし好感度上げるの大変ですからね、課金は必須です。結衣さん絶対ルシエルに貢ぎそう」
「やめて、恐ろしい未来が見えるから。絶対にゲームはしない。それにゲームまで始めたら佐伯君と顔を合わせるたびに心臓が止まる、無理」

 ブンブンと首を振って否定すると、むかえに座っていた絵里がやばい、というような顔で結衣の後ろを見上げ、固まっている。はて、どうしたのだろうかと後ろを振り返ってみると、そこには真顔なのに何かおどろおどろしいものを放っている類がいた。

(うえっ、もしかして、聞かれてた?どこから?どこまで?ってか最後の一言聞かれてた?よね……)

「えっと、お、お昼?」
「……はい」
「……だよね」

 類は真顔のままペコリ、とお辞儀をして結衣たちから離れた席に歩いて行った。

「お、終わった……ってか、こんな誰にでも聞こえるような場所であんなこと喋るもんじゃなかった」
「すみません、元はといえば私が悪いですよね。いつもの癖でつい……」
「いや、それに乗っちゃった私も悪いし。気にしないで」

 そう言いつつ、結衣はチラリと類に視線を送る。類はラーメンを食べようとしているが、ふと結衣の方を見た。視線がぶつかるが、類はすぐに視線を逸らす。

(うう、絶対嫌われた……社内ではオタクって公言してるし佐伯君にオタクって思われるのは別に構わないけど、今までみたいに接してくれなかったらどうしよう。せっかく築き上げた信頼が……!)
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