後輩が転生してきた推しだと言われましても


 食堂での一件から一週間が経った。

(いやあ、いいイベントだった!)

 結衣は読んでいるシナリオ小説の原作である乙女ゲームのイベント会場に来ていた。本当であれば絵里と一緒にくるはずだったが、絵里が急用で来れなくなったため、一人でやって来たのだ。

「うええええん!結衣さんん!私の分まで楽しんでくださいいいいい」

 正直一人で来ることには最後まで悩んだが、涙をいっぱい溜めて結衣に縋りつきながら悲しそうに言っていた絵里を思い出し、結衣はこのイベントを全力で楽しもうと決意していた。

 そんなこんなで色々なブースを周り、絵里へのお土産を購入して、結衣は会場を出ようとする。

(絵里ちゃん、喜んでくれるかな)

 ほくほくとした顔でお土産の袋の中身を覗き込みながら、ふと、食堂で結衣と絵里の会話を類に聞かれたことを思い出していた。あれから一週間が経つが、類は特に態度を変えることもなく、相変わらず淡々と仕事をこなしている。

(態度を変えられるのは一番きついけど、何も変わってない上に何も聞かれないのもなかなかキツいものがあるんだよね……)

 かといって、自分からわざわざ話をするのも違う気がする。結衣はうーんと考えながら歩いていると、目の前に見知った顔があるのに気づいた。

(あ、れ……?)

「佐伯、君?」

 思わず声をかけると、会場の入り口でぼうっと会場内を眺めていた類が、結衣の姿を見て驚く。

「佐々木さん、来てたんですか」
「え、あ、うん。佐伯君は?なんでここにいるの?」
「それは……」

 急に思い詰めたように類は地面をじっと睨んでいる。一体、どうしたというのだろうか。類がここにいること自体が意外すぎて、結衣はただただ首を傾げてしまう。

「あ、もしかして男一人で入るの躊躇ってる?大丈夫だよ、一人で来てる男の人も結構いたし。このゲーム、シナリオがしっかりしてて男性ファンも多いんだよ。あ、それともなんなら一緒に行く?まだ最終ゲート潜ってないから私、もう一回中に入れるよ。ってゆうか、佐伯君、このゲーム知ってたんだね。意外でびっくりしちゃった」

 結衣は沈黙が怖くなり、とにかくペラペラと喋ってしまう。そんな結衣を見ながら類はずっと黙っていたが、意を決したように口を開いた。

「あの、相談したいことがあるんで聞いてもらえますか?」



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