後輩が転生してきた推しだと言われましても
「佐々木さん、あの乙女ゲームが好きなんですか」
「え、えーっと、乙女ゲームが好きというか、乙女ゲームはしてなくて、元々はシナリオ小説が好きなの。それからアニメにもハマったんだけど、って、このことが相談と何か関係があるの?」

 結衣の疑問に類は一瞬表情を固くするが結衣から視線は逸らさない。いつもはポーカーフェイスで何事にも揺るがない類の瞳が不安げに揺れていて、何かとてつもないことがあるのではないかと思わせるほどだ。

「信じてもらえないと思うんですけど」
「?」
「……俺、ルシエルの生まれ変わりなんです」
「……うん?はい?」

(今なんていった?ルシエルの生まれ変わり?ルシエルって、あのルシエル様?はい?どゆこと?)

 言われたことが理解できず、結衣は混乱して絶句する。そんな結衣を見て、類は諦めたような悲しそうな複雑そうな顔をした。

「えっと、ルシエルって、あのルシエル?生まれ変わり?いや、あの、ルシエルってゲームのキャラだよね?その生まれ変わりってどういうこと?いや、確かにすごく似ててびっくりしたけどね!あ、もしかして新手のロマンス詐欺みたいなやつ?この間、私がルシエル様のファンって聞いてたもんね。いや、でも私なんかにわざわざ詐欺する必要ないか、佐伯君黙っててもモテるだろうし。いや、ごめん、ちょっとなんか混乱してて、正直わけがわからないや……」

 早口で喋ると、頭を抱えて結衣はうーんと唸る。

「まぁ、そうなりますよね。すみません。突然すぎました」
「いや、こちらこそなんかごめん。でもまだよく理解できない」

 結衣は苦笑して類を見ると、類は眉を下げて少し微笑んでいる。その微笑みは心底痛々しくて、結衣は苦しくなり思わず心臓が止まりそうになった。

「その反応が正常だと思います。佐々木さんは悪くないです。でも、これだったら信じてもらえますか?」

 そう言って、類は片手を自分の目の前に出した。すると類の薄い茶色の瞳が突然青く光りだし、類の片手から青白い炎が出現する。

(待って、これって、ルシエル様の『蒼き炎の鎮魂歌(レクイエム)』……!)

 ルシエルは特殊能力で蒼い炎を出せる、という設定になっている。その特殊能力の名前がゴリゴリの厨二病なのだが、それすらも愛おしいと思えるほどに結衣はルシエルを推していた。

「な、んで、それを……?」
「ルシエルが出せる特殊能力。佐々木さんなら、わかりますよね。俺はこれが出せます。ただの人間には出せないもの、ですよね」

 フッと青白い炎は消えて、類の瞳の色もいつもの薄い茶色に戻った。

「ほ、本当に、あなたは、ルシエル、なの?」

 結衣の問いかけに、類は困ったように眉を下げて頷いた。


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