モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい

無条件にモテるということ

 休日明けの学校ってのは憂鬱なことが多いけど、今日の私は特にそうだった。
 その最大の理由が、眠気。
「どうしたの。なんだかすごく眠そうだけど」
 私の不調は傍目にも明らかみたいで、席についたとたん、パティからそう言われる。
「昨日夜遅くまで調べものしててね。寝るのが遅くなっちゃった」
「調べもの? なんの?」
「うーん。ちょっと色々事情があるの」
 調べ物の内容については、言葉を濁す。
 言っても、すぐには受け入れてもらえそうにないからね。
(悪魔祓いなんて言ったら、絶対変な顔されるよね)
 私が調べていたのは、先祖の残した、悪魔についての資料だった。
 悪魔祓いの依頼って言っても、オウマ君から頼まれたのは、インキュバスの力を抑える方法を突き止めること。
 ならまずは、悪魔やその力に関して正しい知識を得るところからはじめることにしたの。
 いくらご先祖様を蔑ろにしまくっていた我が家でも、当時の資料や文献は未だに残っている。それを読めば、何かヒントが見つかるかもしれないからね。
 ただし、いざやってみると、思った以上に大変だった。
 なにしろ残されていた資料はあまりに多くて、保管も適当。どこにどんな資料があるかもろくにわからなくて、全然進んでいなかった。
「このままじゃ埒があかない。やっぱりアイツを頼ろうかな」
 頭の中に、とある人物の顔が浮かぶ。彼に協力してもらえたら、頼りになるかもしれない。実は、そんな心当たりが一人だけいた。
 けど別の人間を巻き込むとなると、オウマ君にも話しておいた方がいいかな。
 そう思っていると、教室の外が騒がしくなってきた。
 聞こえてくるのは、主に女の子の声。それだけで、何があったかだいたいわかる。
 思った通り、いつものように女の子に囲まれたオウマ君の登場だ。
 早速今考えてたことを相談しようかと思ったけど、周りにいる女の子達がバリケードになっていて、とても近づけそうにない。
 相変わらずのモテっぷり。だけどこの状況も、インキュバスの持つ魅了の力のせいなんだよね。
「ねえパティ。オウマ君ってカッコいい?」
 他の女子と同じく、オウマ君の姿を眺めているパティに向かって聞いてみる。
「そりゃ、もちろんカッコいいよ。なに言ってるの?」
「カッコいいって言っても、好きなタイプって人それぞれでしょ。なのにオウマの場合、全方位にモテてるなって思って。パティは、元からああいうタイプが好きなの?」
「うーん、どうかな。そりゃ好きなタイプってのはいるけど、オウマ君くらいになると、そういうの関係なくいいって思うじゃない」
 不思議そうな顔をするパティ。まるで、どうしてそんな当たり前の事を聞くのって感じだ。
 これだって、インキュバスの持つ力の影響なんだよね。
 人の気持ちを無理やりねじ曲げる。昨日オウマ君は、この力の事をそんな風に言っていた。そして、それは酷いことだとも。
 こうして夢中になってるパティを見ると、彼の悩む気持ちが、前より少しだけわかるような気がした。
 オウマ君を見ると、ちょうど彼もこっちに目を向けていて、お互いの視線が合わさる。
 その時、僅かにばつの悪そうな表情になったのがわかった。
 全ての事情を知ってる私にこの光景を見られるってのは、居心地が悪いのかも。
(好きでこうしてるってわけじゃないんでしょ。ちゃんとわかってるから)
 一応、そんな気持ちを込めて目配せをしたけど、それが伝わったかどうかはわからない。
 なんとも言えない気持ちで様子を眺めていたけど、急に、そんな状況が一変する。
 きっかけは、オウマ君を囲む女の子の中に、新たに一人割って入ったことだ。
「あなた達、そこを退いてくださらない」
 それは、明るい髪を丁寧に巻いた美人さん。
 彼女は、それまで他の子が話をしていたにも関わらず、それを押し退け、オウマ君の前に立つ。
 さらに、彼女の後ろから二人の女の子がやって来て、まるでガードするかのように、他の女の子の前に立ち塞がる。
 普通、そんなことをすれば反感を買いそうなものだけど、誰も文句は言わなかった。ううん、言えないんだ。
 最初にやって来た人の名前は、エイダ=フェリス。あとの二人は、とりあえず、その取り巻きと思っておけばいい。
 多分、オウマ君とは違った意味で、エイダさんのことを知らない生徒は、この学校にはいないだろう。
 彼女の家は歴史ある侯爵家。多くの貴族の子息息女が集まるこの学校でも、ここまで高い地位の人は珍しい。そしてその立場は学校内においても揺らぐことなく、生徒間におけるヒエラルキーの頂点として、女王の如き威厳をもって君臨していた。

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