モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい
女王の如き人
校内において、女王の如き立場と威厳を持つエイダさん。そんな彼女は、オウマ君に対して熱狂的なまでに好意を寄せていることでも有名だった。
オウマ君を好きな子は学校中にいくらでもいるけど、その好意の度合いは、パティみたいに見てるだけでいいって人から、絶対付き合いたいというガチ勢まで幅広い。そしてエイダさんは、明らかに後者だった。
オウマ君の周りに女の子が集まる時は、常にすぐ近くに陣取り、時には他の子を下がらせ、オウマ君と一対一で話すことだってある。そして、今がまさにそんな時だった。
「皆さん。私、オウマ君にお話がありますの。少し下がってもらっていいかしら」
それを聞いて、周りの女子たちが一歩下がる。
他の子だってオウマ君の近くにはいたいだろうけど、エイダさんには逆らえない。それくらい、この学校での彼女の立場は強かった。
「何か用か?」
オウマ君は素っ気なく言うけど、ちょっぴり緊張しているようにも見えた。わざわざ他の人を下がらせてまで話そうとしてるんだから、単なる世間話じゃなさそう。
周りの子も、いったい何を話すのか、固唾を飲んで見守っていた。
「来月あります聖夜祭、それについて、お話ししたいことがありますの」
「聖夜祭? それって、この学校であるパーティーのことか?」
聖夜祭って言うのは、ハイラント王国で広く信仰されている宗教の開祖が生まれた日を祝う行事。と言っても、今ではそれにかこつけてワイワイ騒ぐ日って感じになってる。
ここライトリム学園でも、毎年その日は、保護者や卒業生も招いての大規模なパーティーが開かれていた。
そしてそれを聞いた瞬間、ここにいる誰もが、エイダさんが何を言いたいのか、だいたい察しがついた。
「オウマ君、ダンスのパートナーがまだ決まっていないのではありませんか? もしよろしければ、私が相手というのはいかがでしょう?」
やっぱりね。
聖夜祭パーティー最大の目玉は、自由参加で行われるダンス。
名目上は、仲の良い相手と楽しく踊ろうみたいな軽いものだけど、実際は恋人同士でペアになるのが暗黙の了解みたいになっている。
つまりここで一緒にダンスを踊るっていうのは、私達は恋人ですよと周りに宣言するようなもの。しかも学校の生徒ばかりか、たくさんの保護者や卒業生の前でアピールできるんだ。
オウマ君ガチ勢のエイダさん。ここで一気に勝負に出るつもりなのかな。
だけどオウマ君は、それを聞いてすぐにこう返した。
「誘ってくれるのは嬉しいけど、俺は誰とも踊る気はないから」
まあ、やっぱりそう答えるよね。
ダンスもパーティーも、参加は自由で、出なくても何の問題もない。女の子から好意を寄せられる事にさえ罪悪感を抱くオウマ君が、踊ろうなんて言うはずがないか。
だけど、それを聞いてもエイダさんは顔色一つ変えなかった。
「あら、私では不満ですか。私とオウマ君なら、家柄としても釣り合うのではなくて?」
自信たっぷりにそう言うと、側にいた彼女の取り巻き二人が声をあげた。
「私も、二人ならお似合いだと思います」
「お二人なら、不満を言う者など誰もいないでしょう」
この二人も、多分エイダさんからこう言うように指示されてるんだろうな。オウマ君の魅了の力を考えると、二人だって彼に好意を抱いていてもおかしくはない。だけどエイダさんには、二人を従わせられるだけの力がある。
さっき、『二人なら不満を言う者など誰もいない』って言っていたけど、たしかに、エイダさんに面と向かって不満を言える人なんていないだろうな。
だけどそれでも、オウマ君は頷かなかった。
「釣り合うとかじゃなくて、さっきも言ったように、俺は誰とも踊る気なんてないよ。パートナーが欲しいなら、他をあたってくれないか」
今度は、さっきよりも強い口調で言う。みんなの前でここまでハッキリ断られるなんて、プライドを傷つけられたんじゃないかな?
だけどエイダさんはそれでも一切動揺することなく、フッと息をつく。
「誰とも、ですか。それなら仕方ありませんわね。失礼しました」
おや? 意外にも、今度はアッサリ聞き入れてくれたようだ。とても、さっきまであんなに強く頼んでいた人とは思えない。
これにはオウマ君も驚いた顔をしていたけど、それからエイダさんは、教室を見渡し、声を張り上げて言う。
「皆さんも聞きました? 残念ですが、オウマ君は誰とも踊る気がないそうですわ。これでは、誰が誘っても無駄ですわね」
それを聞いて、ようやくエイダさんの意図を理解する。
多分彼女は、こうして断られることをある程度覚悟していたんだ。もちろん、一緒に踊るって言ってくれたらそれが一番だろうけど、断られた後のことだって考えていたんだ。
自分が一緒に踊れないのなら、次になにをするか。それは、牽制だ。
誰が誘っても無駄。わざわざ教室中に聞こえるようにそう言ったのは、要は「お前たちがオウマ君を誘ったらタダじゃおかねーぞ!」って意味なんだろうな。
最初からここまで見越して、こんな大勢の前でダンスを申し込んだんだ。
どこまで本当か分からないけど、以前オウマ君に対して抜け駆けをした女子が、彼女に制裁を加えられたなんて噂もある。牽制としては十分だ。
実際、女子生徒の間に、これまで以上の緊張が走ったような気がした。
「それでは、失礼いたします」
こうしてエイダさんは、クラスの女子全員、いや全校の女子全員に対する牽制を終え、最後までにこやかなまま去っていった。
断られた後もここまで堂々と立ち振る舞うことで、大したことじゃありませんよってアピールにもなるんだろうな。
彼女がいなくなった後も、なんだか教室中に圧が残っている気がするよ。
だけど今回のことで一番ダメージが大きかったのは、オウマ君だと思う。
遠目に彼の表情を伺うと、なんだか苦しそうに見えた。
オウマ君を好きな子は学校中にいくらでもいるけど、その好意の度合いは、パティみたいに見てるだけでいいって人から、絶対付き合いたいというガチ勢まで幅広い。そしてエイダさんは、明らかに後者だった。
オウマ君の周りに女の子が集まる時は、常にすぐ近くに陣取り、時には他の子を下がらせ、オウマ君と一対一で話すことだってある。そして、今がまさにそんな時だった。
「皆さん。私、オウマ君にお話がありますの。少し下がってもらっていいかしら」
それを聞いて、周りの女子たちが一歩下がる。
他の子だってオウマ君の近くにはいたいだろうけど、エイダさんには逆らえない。それくらい、この学校での彼女の立場は強かった。
「何か用か?」
オウマ君は素っ気なく言うけど、ちょっぴり緊張しているようにも見えた。わざわざ他の人を下がらせてまで話そうとしてるんだから、単なる世間話じゃなさそう。
周りの子も、いったい何を話すのか、固唾を飲んで見守っていた。
「来月あります聖夜祭、それについて、お話ししたいことがありますの」
「聖夜祭? それって、この学校であるパーティーのことか?」
聖夜祭って言うのは、ハイラント王国で広く信仰されている宗教の開祖が生まれた日を祝う行事。と言っても、今ではそれにかこつけてワイワイ騒ぐ日って感じになってる。
ここライトリム学園でも、毎年その日は、保護者や卒業生も招いての大規模なパーティーが開かれていた。
そしてそれを聞いた瞬間、ここにいる誰もが、エイダさんが何を言いたいのか、だいたい察しがついた。
「オウマ君、ダンスのパートナーがまだ決まっていないのではありませんか? もしよろしければ、私が相手というのはいかがでしょう?」
やっぱりね。
聖夜祭パーティー最大の目玉は、自由参加で行われるダンス。
名目上は、仲の良い相手と楽しく踊ろうみたいな軽いものだけど、実際は恋人同士でペアになるのが暗黙の了解みたいになっている。
つまりここで一緒にダンスを踊るっていうのは、私達は恋人ですよと周りに宣言するようなもの。しかも学校の生徒ばかりか、たくさんの保護者や卒業生の前でアピールできるんだ。
オウマ君ガチ勢のエイダさん。ここで一気に勝負に出るつもりなのかな。
だけどオウマ君は、それを聞いてすぐにこう返した。
「誘ってくれるのは嬉しいけど、俺は誰とも踊る気はないから」
まあ、やっぱりそう答えるよね。
ダンスもパーティーも、参加は自由で、出なくても何の問題もない。女の子から好意を寄せられる事にさえ罪悪感を抱くオウマ君が、踊ろうなんて言うはずがないか。
だけど、それを聞いてもエイダさんは顔色一つ変えなかった。
「あら、私では不満ですか。私とオウマ君なら、家柄としても釣り合うのではなくて?」
自信たっぷりにそう言うと、側にいた彼女の取り巻き二人が声をあげた。
「私も、二人ならお似合いだと思います」
「お二人なら、不満を言う者など誰もいないでしょう」
この二人も、多分エイダさんからこう言うように指示されてるんだろうな。オウマ君の魅了の力を考えると、二人だって彼に好意を抱いていてもおかしくはない。だけどエイダさんには、二人を従わせられるだけの力がある。
さっき、『二人なら不満を言う者など誰もいない』って言っていたけど、たしかに、エイダさんに面と向かって不満を言える人なんていないだろうな。
だけどそれでも、オウマ君は頷かなかった。
「釣り合うとかじゃなくて、さっきも言ったように、俺は誰とも踊る気なんてないよ。パートナーが欲しいなら、他をあたってくれないか」
今度は、さっきよりも強い口調で言う。みんなの前でここまでハッキリ断られるなんて、プライドを傷つけられたんじゃないかな?
だけどエイダさんはそれでも一切動揺することなく、フッと息をつく。
「誰とも、ですか。それなら仕方ありませんわね。失礼しました」
おや? 意外にも、今度はアッサリ聞き入れてくれたようだ。とても、さっきまであんなに強く頼んでいた人とは思えない。
これにはオウマ君も驚いた顔をしていたけど、それからエイダさんは、教室を見渡し、声を張り上げて言う。
「皆さんも聞きました? 残念ですが、オウマ君は誰とも踊る気がないそうですわ。これでは、誰が誘っても無駄ですわね」
それを聞いて、ようやくエイダさんの意図を理解する。
多分彼女は、こうして断られることをある程度覚悟していたんだ。もちろん、一緒に踊るって言ってくれたらそれが一番だろうけど、断られた後のことだって考えていたんだ。
自分が一緒に踊れないのなら、次になにをするか。それは、牽制だ。
誰が誘っても無駄。わざわざ教室中に聞こえるようにそう言ったのは、要は「お前たちがオウマ君を誘ったらタダじゃおかねーぞ!」って意味なんだろうな。
最初からここまで見越して、こんな大勢の前でダンスを申し込んだんだ。
どこまで本当か分からないけど、以前オウマ君に対して抜け駆けをした女子が、彼女に制裁を加えられたなんて噂もある。牽制としては十分だ。
実際、女子生徒の間に、これまで以上の緊張が走ったような気がした。
「それでは、失礼いたします」
こうしてエイダさんは、クラスの女子全員、いや全校の女子全員に対する牽制を終え、最後までにこやかなまま去っていった。
断られた後もここまで堂々と立ち振る舞うことで、大したことじゃありませんよってアピールにもなるんだろうな。
彼女がいなくなった後も、なんだか教室中に圧が残っている気がするよ。
だけど今回のことで一番ダメージが大きかったのは、オウマ君だと思う。
遠目に彼の表情を伺うと、なんだか苦しそうに見えた。