モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい
力を制御する方法
ホレス。自分が楽しむためにオウマ君に無茶振りしたとばかり思ってたけど、違うの?
とても信じられないんだけど。
「だって、オウマ君は自分の力を抑えたいって思ってるんだよ。ホレスのやらせたことって、逆に力を使わせてばっかりじゃない。そうしたらいいって、どこかに書いてあったの?」
ホレスはうちにある悪魔関係の本や資料のほとんどを頭の中に叩き込んでいる。だけど、悪魔の力を押さえる方法なんてピンポイントなものが載っているかは怪しい。
「直接そうとは書いてなかったけど、わかってる事を照らし合わせたら、自然とそうなるよ。例えば、これを見てみなよ」
ホレスから渡されたそれは、あるインキュバスの成長記録のようなものだった。全部に目を通すと時間がかかるから、重要そうな部分だけ読んでみたけれど、幼少の頃は力のコントロールがきかずに、周りの人をとにかく魅了させていたらしい。
「俺と同じだ」
「そういうこと。もっともこの人の場合、俺達くらいの歳になると、力を押さえることも、逆に意識して強くすることもできるようになったけどな。一人の女性を自分に惚れさせたかと思ったら、別れる時には一切の好意をゼロにする。それどころか、魔法のような力で付き合っていた記憶すら奪って、後腐れなくポイ捨てしてたみたいだぞ」
「……最低だ」
オウマ君が渋い顔をするけど、そんなの気にするホレスじゃない。次はこれを見てみろと、いくつかの資料を出してくる。
「色々見たけど、悪魔やその血族が、幼少期に自分の力を上手くコントロールできないのは珍しいことじゃないらしい。けどほとんどが、成長したら制御できるようになっている」
「じゃあ、オウマ君もそのうちコントロールできるようになるってこと? でも、今のところ全然そんな気配は無いんだよね」
成長してなんとかなるなら、そもそもこんなに悩んだりしないよね。
「その人達と俺と、いったいどこが違うんだ」
オウマ君も、答えが分からず困っている。だけどそんな私達を見て、ホレスはフッと息をついた。
「少し話がそれるけど、鳥はどうやって飛び方を覚えると思う?」
「えっ。そりゃ、自然に覚えるんじゃないの?」
ホレスがどうしてそんなことを聞くのかわからないけど、私達人間がいつの間にか歩いたり走ったりできるのと似たようなものだと思う。
「じゃあ、もしもその鳥が高いところを怖がって、いつまでも飛ぼうとしなかったらどうなる? それでも、他の鳥と同じように飛べると思う?」
「それは……」
多分無理。だけどそれが、オウマ君の力と関係あるの?
そう思っていると、次にホレスは、オウマ君だけに尋ねた。
「オウマ君。インキュバスの力って、普段から意識して使ってる? 怖がってばっかりで、とにかく使うべきじゃないって思ってない? まるで、飛ぶのを怖がる鳥のように」
「…………」
オウマ君は、すぐには何も答えない。だけどその沈黙は、そうだって言ってるようなものだった。
「……そもそも使う必要なんてない」
「そうかな? 力を押さえるってのも、力の使い方の一種だと思うよ。だから、もっと力を使う練習をして、そのコントロールを覚えれば──」
「力を、制御できるようになるってことですか?」
「全部推測だけどね。やってみる気はある?」
ホレスの言う通り、これはただの推測。それでも、それなりに説得力はあった。
なのにオウマ君は、すぐには頷かない。迷うような、困ったような顔をする。
「正直、それが必要な事だって言われても、できることなら、やっぱりこの力は使いたくない。それに力をたくさん使うってなると、人から生気を吸い取らなきゃ無理だ」
そう言って、オウマ君は私に目を向ける。生気を吸い取る相手ってなると、当然、私になるよね。
「私は構わないよ。もちろん、生気を全部くれなんて言われたら無理だけど、少し疲れるくらいなら大丈夫だから」
「でも……」
元々この依頼を受けたのは私なんだし、少しくらい大変な目にあうのは覚悟している。
だけど、それでもまだオウマ君は頷こうとしなかった。
多分、怖いんだと思う。私から、生気を吸い取るのが。
そして、たくさん悩んだ末に言う。
「悪魔としての力を使っていくってのには、賛成する。でも、シアンの生気を吸い取るのは、やっぱり嫌だ」
やっぱり。オウマ君にとって生気を吸い取るのは、どうしても無理みたい。
「生気を吸い取らなくても、ある程度の力は使えるから、それでだってコントロールは覚えられるかもしれない」
「わかったよ。じゃあ、練習メニューでも考えてみるか」
ホレスも、そんなオウマ君の気持ちを理解したのか、しつこく促すようなことはしなかった。
「ごめん。自分で何とかしたいって依頼しておきながら選り好みするなんて、勝手だよな」
「ううん、そんなことないって。だけど、もし気が変わったら言ってね。私は、いつでも協力してもいいから」
申し訳無さそうに言うオウマ君だけど、私はそれを責める気はなかった。
オウマ君は、女の子を魅了してしまうことに、凄い罪悪感を抱いてた。そんな彼だから、私から生気を吸い取るのだって、躊躇っちゃうんだろうな。
「それじゃあ、明日から力を使う練習をするってことでいいかな。本当は今すぐって言いたいところだけど、効率のいい方法を考えておきたいからね」
ホレスがそう言って、この日は解散になる。
二人を見送りに外に出ると、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
「それじゃあシアン。また明日」
そう言って、オウマ君は自分の家に帰っていく。その後ろ姿を眺めていると、思わずこんな言葉が漏れた。
「上手くいくといいな」
元々これは、依頼が成功した時の報酬目当てではじめたこと。けどそれはそれとして、さんざん悩んでいるオウマ君を見てると、なんとかなりますようにって思わずにはいられない。
だけど、ちょっとだけ思うことがある。
このアイディアを出したのはホレスだし、生気を吸い取らないってなると、私っていらなくない? 元々うちが悪魔祓いだから依頼しに来たんだよね。
それにさ。生気を吸い取らずに練習して、どれだけの効果があるんだろう?
とても信じられないんだけど。
「だって、オウマ君は自分の力を抑えたいって思ってるんだよ。ホレスのやらせたことって、逆に力を使わせてばっかりじゃない。そうしたらいいって、どこかに書いてあったの?」
ホレスはうちにある悪魔関係の本や資料のほとんどを頭の中に叩き込んでいる。だけど、悪魔の力を押さえる方法なんてピンポイントなものが載っているかは怪しい。
「直接そうとは書いてなかったけど、わかってる事を照らし合わせたら、自然とそうなるよ。例えば、これを見てみなよ」
ホレスから渡されたそれは、あるインキュバスの成長記録のようなものだった。全部に目を通すと時間がかかるから、重要そうな部分だけ読んでみたけれど、幼少の頃は力のコントロールがきかずに、周りの人をとにかく魅了させていたらしい。
「俺と同じだ」
「そういうこと。もっともこの人の場合、俺達くらいの歳になると、力を押さえることも、逆に意識して強くすることもできるようになったけどな。一人の女性を自分に惚れさせたかと思ったら、別れる時には一切の好意をゼロにする。それどころか、魔法のような力で付き合っていた記憶すら奪って、後腐れなくポイ捨てしてたみたいだぞ」
「……最低だ」
オウマ君が渋い顔をするけど、そんなの気にするホレスじゃない。次はこれを見てみろと、いくつかの資料を出してくる。
「色々見たけど、悪魔やその血族が、幼少期に自分の力を上手くコントロールできないのは珍しいことじゃないらしい。けどほとんどが、成長したら制御できるようになっている」
「じゃあ、オウマ君もそのうちコントロールできるようになるってこと? でも、今のところ全然そんな気配は無いんだよね」
成長してなんとかなるなら、そもそもこんなに悩んだりしないよね。
「その人達と俺と、いったいどこが違うんだ」
オウマ君も、答えが分からず困っている。だけどそんな私達を見て、ホレスはフッと息をついた。
「少し話がそれるけど、鳥はどうやって飛び方を覚えると思う?」
「えっ。そりゃ、自然に覚えるんじゃないの?」
ホレスがどうしてそんなことを聞くのかわからないけど、私達人間がいつの間にか歩いたり走ったりできるのと似たようなものだと思う。
「じゃあ、もしもその鳥が高いところを怖がって、いつまでも飛ぼうとしなかったらどうなる? それでも、他の鳥と同じように飛べると思う?」
「それは……」
多分無理。だけどそれが、オウマ君の力と関係あるの?
そう思っていると、次にホレスは、オウマ君だけに尋ねた。
「オウマ君。インキュバスの力って、普段から意識して使ってる? 怖がってばっかりで、とにかく使うべきじゃないって思ってない? まるで、飛ぶのを怖がる鳥のように」
「…………」
オウマ君は、すぐには何も答えない。だけどその沈黙は、そうだって言ってるようなものだった。
「……そもそも使う必要なんてない」
「そうかな? 力を押さえるってのも、力の使い方の一種だと思うよ。だから、もっと力を使う練習をして、そのコントロールを覚えれば──」
「力を、制御できるようになるってことですか?」
「全部推測だけどね。やってみる気はある?」
ホレスの言う通り、これはただの推測。それでも、それなりに説得力はあった。
なのにオウマ君は、すぐには頷かない。迷うような、困ったような顔をする。
「正直、それが必要な事だって言われても、できることなら、やっぱりこの力は使いたくない。それに力をたくさん使うってなると、人から生気を吸い取らなきゃ無理だ」
そう言って、オウマ君は私に目を向ける。生気を吸い取る相手ってなると、当然、私になるよね。
「私は構わないよ。もちろん、生気を全部くれなんて言われたら無理だけど、少し疲れるくらいなら大丈夫だから」
「でも……」
元々この依頼を受けたのは私なんだし、少しくらい大変な目にあうのは覚悟している。
だけど、それでもまだオウマ君は頷こうとしなかった。
多分、怖いんだと思う。私から、生気を吸い取るのが。
そして、たくさん悩んだ末に言う。
「悪魔としての力を使っていくってのには、賛成する。でも、シアンの生気を吸い取るのは、やっぱり嫌だ」
やっぱり。オウマ君にとって生気を吸い取るのは、どうしても無理みたい。
「生気を吸い取らなくても、ある程度の力は使えるから、それでだってコントロールは覚えられるかもしれない」
「わかったよ。じゃあ、練習メニューでも考えてみるか」
ホレスも、そんなオウマ君の気持ちを理解したのか、しつこく促すようなことはしなかった。
「ごめん。自分で何とかしたいって依頼しておきながら選り好みするなんて、勝手だよな」
「ううん、そんなことないって。だけど、もし気が変わったら言ってね。私は、いつでも協力してもいいから」
申し訳無さそうに言うオウマ君だけど、私はそれを責める気はなかった。
オウマ君は、女の子を魅了してしまうことに、凄い罪悪感を抱いてた。そんな彼だから、私から生気を吸い取るのだって、躊躇っちゃうんだろうな。
「それじゃあ、明日から力を使う練習をするってことでいいかな。本当は今すぐって言いたいところだけど、効率のいい方法を考えておきたいからね」
ホレスがそう言って、この日は解散になる。
二人を見送りに外に出ると、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
「それじゃあシアン。また明日」
そう言って、オウマ君は自分の家に帰っていく。その後ろ姿を眺めていると、思わずこんな言葉が漏れた。
「上手くいくといいな」
元々これは、依頼が成功した時の報酬目当てではじめたこと。けどそれはそれとして、さんざん悩んでいるオウマ君を見てると、なんとかなりますようにって思わずにはいられない。
だけど、ちょっとだけ思うことがある。
このアイディアを出したのはホレスだし、生気を吸い取らないってなると、私っていらなくない? 元々うちが悪魔祓いだから依頼しに来たんだよね。
それにさ。生気を吸い取らずに練習して、どれだけの効果があるんだろう?