モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい
覚悟を決めて
生気を吸い取るのは、断固拒否していたオウマ君。けど効率よく練習するためには、やった方が絶対にいいと思う。
そうすれば、今までみたいにちょっと力を使ったら息切れするってこともなくなる。
それに、インキュバス最大の特徴のひとつが、この生気を吸い取る力だ。これを鍛えることで、魅了を含めた力全体のコントロールも、より効率よく覚えられるかもしれない。前に、ホレスが推測していた。
それでも、オウマ君の口から出てきたのは、躊躇いの言葉だった。
「生気を吸い取るって、だけど俺は……」
オウマ君だって、効率よく練習するには、生気を吸い取った方がいいって、きっとわかってる。
それでも、なかなか首を縦に振らない。そうなる理由も、だいたいわかるんだけどね。
「オウマ君は私を心配してくれてるんだよね。と言うか、傷つけるんじゃないかって思って怖がってる。違う?」
「──っ!」
インキュバスの力で、人に迷惑をかけたくない。今まで見てきたオウマ君には、いつも根っこにそんな思いを持っていた。
そんな彼にとって、人から生気を吸い取るなんてことは、絶対にやりたくないだろうな。それは、今の動揺する姿を見ても明らかだ。
「そうだよ。少しくらいなら大丈夫って言われても、シアン本人が構わないって言っても、それでも俺は、やるのが怖い。上手く力を制御できずに、大変な事になるんじゃないか。どうしても、そんな風に考えるんだ」
そう言ったオウマ君は、微かに震えていた。
果たしてこれを気づかいと見るべきか、それともただの臆病と見るべきかはわからない。
誰だって、好きで人を傷つけたいなんて思わないだろうし、怖がる気持ちもわかる。だけど私は、ここであえて厳しい言葉をかけてみる。
「でもねオウマ君。そんなこと言ったって、今のままじゃ、力を使う練習はほとんど進めないよね。そうしている間、エイダさん達はずっと魅了にかかったままだよ」
「それは……」
今のオウマ君にこんなこと言うのは、私だって嫌だ。君のせいでたくさんの人に迷惑がかかっているんだって、突きつけることになる。
けどそれでも、オウマ君の心を動かしたかった。
「エイダさん達だけじゃないよ。オウマ君が力の制御を覚えない限り、あんな事はこれから先もおこってくるんだよ」
そしてきっと、オウマ君はその度に、自分のせいだって思って苦しむことになる。そんなのは、もっと嫌だった。
だから私は、ちゃんと自分の力と向き合ってほしくて、前に進んでほしくて、背中を押す。
「だからさ、どうせ何をやっても誰かに迷惑をかけるなら、少しでも何とかなりそうな方をやってみない?」
オウマ君が自分の力を嫌っていて、使うのを躊躇うのは、彼が今まで経験してきたことを思えば無理もないのかもしれない。
だけどこのままじゃ、いつまでたっても同じことの繰り返しだ。それを変えるなら、今しかないと思った。
「だいたいさ、元々私に悪魔祓いの力があるから依頼してきたんでしょ。もう少し、私にも何かさせてよ」
私が今やってることと言ったら、体力測定の手伝いくらい。オウマ君は悪魔祓いって見込んで我が家を頼って来たのに、こんなんじゃたとえ成功しても、胸を張って報酬なんて受け取れない。
その点、生気を分け与えるって役目なら、私にしかできないことだ。
悪魔祓いは、普通の人よりたくさんの生気を持ってるっていうからね。
私に流れる悪魔祓いの力が役に立つなら、できる限りのことはしたかった。
オウマ君は、またしばらくの間、何も言わずに沈黙する。
生気をは吸わない。今までずっとそう言い続けてきたんだから、それを変えるのは難しいのかもしれない。
だけど、本当はどうすればいいかなんて、もうわかっているんだろう。
微かに震えた唇が、再び開かれる。
「生気を吸い取るのは、やっぱり怖い。それ、シアンに想像以上の負担をかけることになるかもしれない。だけど俺、やっぱりこのままは嫌だ。だから、ちゃんと力を押さえられるようになりたい。協力してくれるか?」
そう言って、深く頭を下げてくる。
それは、今までのオウマ君からは、考えられない決断だったのかもしれない。
だけど私は、そこまで畏まらなくてもいいのにと思ってしまう。
「いいよ。って言うか、さっきからそう言ってるじゃない。だいたい、今のままじゃ、練習に付き合うって言ったって、私がやってることっていったら体力測定の記録係じゃない。どうせなら、もっと協力させてよ」
「シアン……」
「私なら、少しくらい生気を吸いとられたって、魅了されることも倒れることもないからさ。悪魔祓いは、インキュバスの力になんて屈しません」
最後は、ちょっとふざけた感じで胸を張る。
元々この依頼を受けた時から、多少の危険や厄介事は覚悟の上だ。力を使うための練習だって、生気を吸い取る役だって、とことん付き合ってやろうじゃないの。
もっとも、本当の悪魔祓いは、自ら進んで生気を渡すなんてしないだろうけどね。
「ありがとう。俺、やってみるよ」
そんな私を見て、オウマ君はようやく、ホッとしたように笑ってみせた。
そうすれば、今までみたいにちょっと力を使ったら息切れするってこともなくなる。
それに、インキュバス最大の特徴のひとつが、この生気を吸い取る力だ。これを鍛えることで、魅了を含めた力全体のコントロールも、より効率よく覚えられるかもしれない。前に、ホレスが推測していた。
それでも、オウマ君の口から出てきたのは、躊躇いの言葉だった。
「生気を吸い取るって、だけど俺は……」
オウマ君だって、効率よく練習するには、生気を吸い取った方がいいって、きっとわかってる。
それでも、なかなか首を縦に振らない。そうなる理由も、だいたいわかるんだけどね。
「オウマ君は私を心配してくれてるんだよね。と言うか、傷つけるんじゃないかって思って怖がってる。違う?」
「──っ!」
インキュバスの力で、人に迷惑をかけたくない。今まで見てきたオウマ君には、いつも根っこにそんな思いを持っていた。
そんな彼にとって、人から生気を吸い取るなんてことは、絶対にやりたくないだろうな。それは、今の動揺する姿を見ても明らかだ。
「そうだよ。少しくらいなら大丈夫って言われても、シアン本人が構わないって言っても、それでも俺は、やるのが怖い。上手く力を制御できずに、大変な事になるんじゃないか。どうしても、そんな風に考えるんだ」
そう言ったオウマ君は、微かに震えていた。
果たしてこれを気づかいと見るべきか、それともただの臆病と見るべきかはわからない。
誰だって、好きで人を傷つけたいなんて思わないだろうし、怖がる気持ちもわかる。だけど私は、ここであえて厳しい言葉をかけてみる。
「でもねオウマ君。そんなこと言ったって、今のままじゃ、力を使う練習はほとんど進めないよね。そうしている間、エイダさん達はずっと魅了にかかったままだよ」
「それは……」
今のオウマ君にこんなこと言うのは、私だって嫌だ。君のせいでたくさんの人に迷惑がかかっているんだって、突きつけることになる。
けどそれでも、オウマ君の心を動かしたかった。
「エイダさん達だけじゃないよ。オウマ君が力の制御を覚えない限り、あんな事はこれから先もおこってくるんだよ」
そしてきっと、オウマ君はその度に、自分のせいだって思って苦しむことになる。そんなのは、もっと嫌だった。
だから私は、ちゃんと自分の力と向き合ってほしくて、前に進んでほしくて、背中を押す。
「だからさ、どうせ何をやっても誰かに迷惑をかけるなら、少しでも何とかなりそうな方をやってみない?」
オウマ君が自分の力を嫌っていて、使うのを躊躇うのは、彼が今まで経験してきたことを思えば無理もないのかもしれない。
だけどこのままじゃ、いつまでたっても同じことの繰り返しだ。それを変えるなら、今しかないと思った。
「だいたいさ、元々私に悪魔祓いの力があるから依頼してきたんでしょ。もう少し、私にも何かさせてよ」
私が今やってることと言ったら、体力測定の手伝いくらい。オウマ君は悪魔祓いって見込んで我が家を頼って来たのに、こんなんじゃたとえ成功しても、胸を張って報酬なんて受け取れない。
その点、生気を分け与えるって役目なら、私にしかできないことだ。
悪魔祓いは、普通の人よりたくさんの生気を持ってるっていうからね。
私に流れる悪魔祓いの力が役に立つなら、できる限りのことはしたかった。
オウマ君は、またしばらくの間、何も言わずに沈黙する。
生気をは吸わない。今までずっとそう言い続けてきたんだから、それを変えるのは難しいのかもしれない。
だけど、本当はどうすればいいかなんて、もうわかっているんだろう。
微かに震えた唇が、再び開かれる。
「生気を吸い取るのは、やっぱり怖い。それ、シアンに想像以上の負担をかけることになるかもしれない。だけど俺、やっぱりこのままは嫌だ。だから、ちゃんと力を押さえられるようになりたい。協力してくれるか?」
そう言って、深く頭を下げてくる。
それは、今までのオウマ君からは、考えられない決断だったのかもしれない。
だけど私は、そこまで畏まらなくてもいいのにと思ってしまう。
「いいよ。って言うか、さっきからそう言ってるじゃない。だいたい、今のままじゃ、練習に付き合うって言ったって、私がやってることっていったら体力測定の記録係じゃない。どうせなら、もっと協力させてよ」
「シアン……」
「私なら、少しくらい生気を吸いとられたって、魅了されることも倒れることもないからさ。悪魔祓いは、インキュバスの力になんて屈しません」
最後は、ちょっとふざけた感じで胸を張る。
元々この依頼を受けた時から、多少の危険や厄介事は覚悟の上だ。力を使うための練習だって、生気を吸い取る役だって、とことん付き合ってやろうじゃないの。
もっとも、本当の悪魔祓いは、自ら進んで生気を渡すなんてしないだろうけどね。
「ありがとう。俺、やってみるよ」
そんな私を見て、オウマ君はようやく、ホッとしたように笑ってみせた。