モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい

全部誤解だから!


 パティを連れ出した私は、まず一番大事なことを聞いてみた。
「いったいどうして、私とオウマ君がつきあってるなんてことになったの?」
「えっと、まず昨日の放課後、シアンがエイダさん達に連れていかれたでしょ。あの時はごめんね。私、なにもできなくて」
「気にしないでよ。パティまで巻き込まれてたら、余計に嫌だったもん。って、そうじゃなくて!」
 昨日の一件に関しては、そもそもパティがついてこようとしたのを私が断ったんだし、彼女を巻き込まなくてむしろホッとしている。
 それよりも、早くオウマ君との話を聞きたかった。
「シアンが連れていかれたのはみんな見てたから、いったい何があったんだろうって騒ぎになってたの。そしたら、その後オウマ君がやって来て、話を聞いたら血相変えて飛び出して行ったの」
 そこまでは、昨日オウマ君から聞いた話とだいたい同じ。そうなると、大事なのはその先だ。
「オウマ君があんなに慌てたとこなんてみんな初めて見たから、これは何かあるんじゃないかって思って何人かの女子が行方を探したの。それで、その中の一人が見たんだって」
「な、何を?」
「オウマ君がエイダさん達に向かって、『俺の彼女に手を出すな。シアンは俺が守る!』って言って、お姫様抱っこでその場から去っていくのを」
「ちょっと待ったーっ!」
 なにそれ、そんなの全然記憶にないんだけど。その子が見たのって、幻かなんかじゃないの?
「それ、全部嘘だから。そりゃオウマ君は私のことを助けてくれてたけど、セリフはだいぶ違うし、お姫様抱っこもしていない。手を引っ張って連れ出してくれただけだから」
 慌てて本当のことを伝えるけど、それを聞いたパティは、なぜか目を輝かせた。
「じゃあ、助けてくれたのは本当なんだね。しかも、手を引いてくれたんだ」
「そこに反応しない! 話と全然違うでしょ!」
 全くの事実無根だって訴えるけど、それでもパティはわかってくれない。
「そりゃ私達だって、少しは話盛られてるんじゃないかって思ったよ。けどオウマ君が、一人の女の子をそんなに特別に扱ったことなんてなかったし、しかもその後をつけたら、二人で一緒にシアンの家に行ったって言うじゃない」
「そんなとこまで見てたの!? って言うか、あの時後をつけられてたの?」
 そこまでくると、もう正式に苦情を言っていいような気がする。
「その反応、やっぱり家に行ったってのは本当のなんだよね?」
「ま、まあそうだけど」
「既に家にお呼ばれするような仲……」
「違うから!」
 オウマ君が私の家に来たってのは本当だけど、色々事情があるの。
 とはいえ、それをここで言うわけにもいかないし……
 困っていると、パティは私の肩にポンと優しく手を置いて、それからゆっくり諭すように言う。
「シアン、もう正直に言ってよ。わざわざ助けてくれたり、家にまで行ったりしてるんだから、二人の間に何かあるって事くらいさすがにわかるって」
 わかってない。だけど、もはや何を言っても納得してくれるとは思えなかった。
「って言うか、パティはそれでいいの? パティだって、オウマ君のこと好きなんでしよ」
 パティも他の女子達と同じように、オウマ君の力によって魅了された一人だ。
 オウマ君が好きだって、何度も言っている。誤解とはいえ、私とつきあってるなんてなったらショックなんじゃないの?
「もしかして、私のことを気にして今まで黙ってたの? だとしたら、気を使わせてごめんね。でも、前にも言ったでしょ。私にとってオウマ君は、つきあいたいとかじゃなくて観賞用だって。そりゃ、ちょっとは寂しい気持ちはあるよ。でも私は、シアンのいいところ、たくさん知ってるから。だから、ちゃんとおめでとうって言えるよ」
「パティ……」
 そうは言っても、好きって想いが無くなるわけじゃない。切なさや悲しみだって、少なからずあるに決まってる。なのにパティは少しもそんなそぶりは見せずに、笑顔で私を祝福してくれた。
 彼女のその健気さに思わずホロリと……いやいやいや、そうじゃないから!
「だから、全部誤解なの。私とオウマ君は何もないんだってば」
「私にはもう隠さなくてもいいって。シアンに何かあったって聞いたら、血相変えて助けに行くし、家にお呼ばれしてるし、今日だって一緒に登校してきたじゃない。それに噂じゃ、毎日二人でお昼食べてるっても聞いたよ。それだけやって何もないってことないでしょ」
「ちょっと待って。お昼のことまで知ってるの?」
 エイダさん達にもバレていたし、いつの間にかけっこうな人に見られていたのかも。
 パティが言った根拠を一つ一つ並べてみると、確かに事情を知らなければ、誤解するのも無理はないかもと思ってしまう。
「ダメだこりゃ」
 大きくため息をつき、ひとまず説明するのを諦める。根も葉もない噂って、こうやって広まるんだな。
 こうなったら、やっぱりオウマ君も一緒になって否定してもらおうか。そう思いながら、話を切り上げ教室に向かった。
 すると中ではオウマ君が、みんなに囲まれながら、困ったように肩をすくめていた。
 そして、私のそばにやってくると、申し訳なさそうに言う。
「ごめん。誤解だって、言うには言ったんだけど……」
 ダメだったか。
 みんなは相変わらず私たちに注目していて、あれこれ囁きあっている。
 こういうのって、本人が否定したくらいじゃ、なかなかおさまりそうにないからね。
 その様子を見ながら、私とオウマ君は、もはやなるようにしかならないだろうと観念するしかなかった。
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