モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい
私の全てをあげたって
オウマ君が、最後に残った男と激しく揉み合っていた時のことを思い出す。多分、その時持っていた男のナイフが刺さったんだろう。
かなり深く刺さったのか、血は全然止まる気配がない。
「オウマ君! オウマ君!」
何度も名前を呼びかけるけど、返事どころか反応一つなかった。せめて少しでも血を止めようと、上着を脱いで傷口に押し当てる。
それでも少しずつ、赤いシミは広がっていく。
ピクリとも動かない体に、止まらない血。それは、この後に訪れる最悪の事態を想像させるには十分だった。
「わ、私のせいじゃありませんわ。最初に、ちゃんとオウマ君にはケガをさせるなと言ってましたのに──」
「うるさい、黙ってて!」
エイダさんが何か言ってたけど、まともに聞く余裕なんてなかった。なんとかして助けなきゃ。そう思ってはいるけれど、どうすればいいのか分からない。
オウマ君は、たった今私を助けるため戦ってくれた。なのに私は、何もできないでいる。悔しさが、込み上げてくる。
だけどその時、ホレスの声がとんだ。
「シアン、生気を送れ!」
「えっ?」
「前にオウマ君が言ってただろ。インキュバスの力があれば、ケガしてもすぐに回復するって!」
そんなこと言ってたっけ? あいにく私はハッキリとは覚えていなかったけど、こういう時のホレスの記憶は確かだ。言われるままにオウマ君の手を掴み、生気を渡そうとする。
生気を吸われた後は、いつも全力で走ったみたいに、ひどく体力を消耗する。でも今は、例え倒れるくらい吸われたってよかった。私の全てをあげたって、オウマ君が助かるならそれでいいと思った。
だけど──
「ダメ。何も起きない!」
いくら強く手を握っても、傷口はちっとも塞がらない。と言うより、生気を吸われる感覚がちっともない。
「意識を失っているからダメなのか? なら無理やり起こして……いや、今激しく動かすのは危険か」
ホレスも、これ以上どうすればいいのかわからず焦ってる。
生気を送ることさえできたら、助けられるのに。
こうしている間にも、オウマ君からはなおも血が流れ出している。
瞳に映るその光景が、いつの間にか歪んでいることに気づく。いつの間にか、私の目には涙が溢れていた。
「う……く……」
このまま感情を爆発させ泣き叫ぶことができたら、ある意味その方が楽かもしれない。だけどだけどそんな気持ちを振り切るように、涙を拭う。
「考えなきゃ。何とかする方法を」
ここで泣いたって、何も解決しやしない。時間を無駄にするだけだ。そんな暇があったら、助ける方法を考えろ。
私にはホレスみたいな知識も機転も無いけれど、それでも必死で探す。どうすればオウマ君を助けられるかを、私の生気をあげられるかを。
今まで見聞きしたこと全てをひっくり返し、記憶を辿る。
そして思い出す。初めてオウマ君へ生気を送る方法を聞いた時、彼やホレスが何と言っていたのかを。手を繋ぐよりも、もっとたくさんの生気を渡す方法があったことを。
「これなら、もしかして──」
倒れているオウマ君に、そっと顔を近づけ、小さく深呼吸する。
この方法が、今のこの状況でも効果があるのかはわからない。だけど少しでも可能性があるなら、それに賭けたい。賭けるしかない。
僅かに開いていた彼の口に、私は自らの唇を重ねた。
かなり深く刺さったのか、血は全然止まる気配がない。
「オウマ君! オウマ君!」
何度も名前を呼びかけるけど、返事どころか反応一つなかった。せめて少しでも血を止めようと、上着を脱いで傷口に押し当てる。
それでも少しずつ、赤いシミは広がっていく。
ピクリとも動かない体に、止まらない血。それは、この後に訪れる最悪の事態を想像させるには十分だった。
「わ、私のせいじゃありませんわ。最初に、ちゃんとオウマ君にはケガをさせるなと言ってましたのに──」
「うるさい、黙ってて!」
エイダさんが何か言ってたけど、まともに聞く余裕なんてなかった。なんとかして助けなきゃ。そう思ってはいるけれど、どうすればいいのか分からない。
オウマ君は、たった今私を助けるため戦ってくれた。なのに私は、何もできないでいる。悔しさが、込み上げてくる。
だけどその時、ホレスの声がとんだ。
「シアン、生気を送れ!」
「えっ?」
「前にオウマ君が言ってただろ。インキュバスの力があれば、ケガしてもすぐに回復するって!」
そんなこと言ってたっけ? あいにく私はハッキリとは覚えていなかったけど、こういう時のホレスの記憶は確かだ。言われるままにオウマ君の手を掴み、生気を渡そうとする。
生気を吸われた後は、いつも全力で走ったみたいに、ひどく体力を消耗する。でも今は、例え倒れるくらい吸われたってよかった。私の全てをあげたって、オウマ君が助かるならそれでいいと思った。
だけど──
「ダメ。何も起きない!」
いくら強く手を握っても、傷口はちっとも塞がらない。と言うより、生気を吸われる感覚がちっともない。
「意識を失っているからダメなのか? なら無理やり起こして……いや、今激しく動かすのは危険か」
ホレスも、これ以上どうすればいいのかわからず焦ってる。
生気を送ることさえできたら、助けられるのに。
こうしている間にも、オウマ君からはなおも血が流れ出している。
瞳に映るその光景が、いつの間にか歪んでいることに気づく。いつの間にか、私の目には涙が溢れていた。
「う……く……」
このまま感情を爆発させ泣き叫ぶことができたら、ある意味その方が楽かもしれない。だけどだけどそんな気持ちを振り切るように、涙を拭う。
「考えなきゃ。何とかする方法を」
ここで泣いたって、何も解決しやしない。時間を無駄にするだけだ。そんな暇があったら、助ける方法を考えろ。
私にはホレスみたいな知識も機転も無いけれど、それでも必死で探す。どうすればオウマ君を助けられるかを、私の生気をあげられるかを。
今まで見聞きしたこと全てをひっくり返し、記憶を辿る。
そして思い出す。初めてオウマ君へ生気を送る方法を聞いた時、彼やホレスが何と言っていたのかを。手を繋ぐよりも、もっとたくさんの生気を渡す方法があったことを。
「これなら、もしかして──」
倒れているオウマ君に、そっと顔を近づけ、小さく深呼吸する。
この方法が、今のこの状況でも効果があるのかはわからない。だけど少しでも可能性があるなら、それに賭けたい。賭けるしかない。
僅かに開いていた彼の口に、私は自らの唇を重ねた。